エピローグ

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エピローグ

 …私は誰?  鏡に映る自分の顔に問いかけたところで、答えは返ってこない。ここにいる私と、見つめ返す私もまた、異なる存在だからだ。たとえそれが、ただの光の反射だとしても、私が見ている『何か』には変わらない。   そこに、答えは無い。  …それでも、私は鏡を見つめながら、問いかけることしかできない。  …念のために言っておくけど、私は別に自分探しをしているわけじゃない。  自分が自分であることに、迷いも疑念も持たないなら、実に幸せなことだ。はっきり言って、うらやましい。いつまでも、その自分とやらを信じればいい。世界はきっとそうやって回っている。  ただ、そこに私は居ない。私には関係の無い世界の話だからだ。  私は、自分が果たして誰なのかすら分からない。  記憶喪失とかじゃない。一応、ものごころついてからの記憶はある。ただその記憶は、私ひとりだけのものじゃない。たくさん居る中の、ひとりが私である。他にどれだけの私が居るのか、私にも検討がつかない。だから、私はたった一人の私じゃない。でもそれは、もはや私とも呼べない。私は、私の中の『誰か』であり、『何か』。  そして、怪物だ。  …だけど、その怪物もまた死んだはずだった。  肉体を構成する細胞が、異物を排除するように。傷口を、新たな皮膚が埋めるように。  少なくとも、私は『私』の中から消えるものだと思っていたけれど…。  こうして、鏡を見ている。『私』を見ている。  相も変わらず、蛾のようなドレスを身にまとっている。  私は誰だろう…。 「あおい」  人形のような顔立ちの少女が、愛想のカケラも無い声で呼びかける。 「リーナ…あなたなの?」  鏡に映るもう一人に、私は呼びかける。 「呼び出しだ」質問に答えず、目線を外にやる。「…鳴っているぞ」  …ジリリリリリリリリン…と、先ほどからずっと黒電話が鳴っている。  かれこれ十分は鳴りっぱなし。ずっと無視していたのだけれど、リーナがこうして姿を見せた。ただのイタズラや、幻聴ではないらしい。  仕方ない…。  ため息まじりに腰を上げ、受話器を取る。  ……。  無言だ。誰かが耳を澄ませている。 「…もしもし?」 「どちら様でしょうか?」  私は受話器をたたきつけるように切った。
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