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優作はケツを半分だけ椅子からずらし、この危ない外人からいつでも逃げられる体勢を整えた。
まだ三皿しか食ってないが、どうせこの店の寿司はパサパサのカスカスだ。構うもんか。優作はそう考えながらもあと二皿くらいは食べておかないと失礼だろうか、さっきの偽日本人風寿司職人は以外と愛想がいいやつだったな。二皿で帰ったら、不味かったんじゃないかとショックを受けないだろうか。その時はチップを弾めばいいか。などと、またも日本人特有の要らぬ気遣いが優作の脳を占めていた。
優作はそんな自分のめんどくさい超日本人的な性格に自己嫌悪していた。
(過剰なサービス精神を叩き込む日本的教育が悪いんだ!)
「あなたは日本から来られたのですか?」
天パらくだまつげが優作に聞いた。
「はぁ、まぁ、そうですが、あなたは日本語がとてもお上手ですね。訛りが全くない」
優作は尻をもう少しだけ外へずらした。
「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります。私は地上の人間の全ての言語を話すことが可能ですが、これは設定であり、自分ではその国の言葉を話しているという自覚はないのですよ。理屈では聞き手のあなた方が自分の言語として自動的に理解しているだけなのです」
「あ……はぁ」
優作は口をぽかんとひらきながら情けない声を吐きだした。
さっきからこのらくだはなにを言ってるのだ。人間界とか地上の人間とか、全ての言語だとか設定とか。まるで自分は人ではなく、どこか宇宙からやってきたような言い方じゃないか。
そう言えば、ここアメリカのネバダ州にはエリア51と呼ばれる、エイリアン関連の施設があると噂されるが、まさかこいつ宇宙人なんてことはないだろうな。
(まさか……ね。はは)
優作はラクダまつげを横目で流し見た。食通の日本が大好きな有名人にこんな顔がいた気がしてきた。
大抵こういう寿司好きの日本語が堪能な変わったアメリカ人というのは、偉大な功績を残す起業家や投資家のビリオネアが多いそうで、かくいうスティーブ・ジョブスも日本の蕎麦が好きすぎて、社員食堂に蕎麦メニューを置いたくらいだ。もし、このらくだまつ毛が実はアメリカでは名高い投資家だったら、この出会いは運命かもしれない。ここで仲良くなっておけばいいことがあるかもしれない。就職先を紹介してもらえるとか。
優作は乾ききったイカのようになった唇を一舐めした。
「し、失礼ですがあなたのお名前は?」
(覚えておいてあとでググろ)
「ああ、これはこれは。自己紹介がまだでしたね」
ラクダまつげが白い歯を剥き出して微笑む。
「私は、神です」
「え? カミュ……さん、ですか?」
セイン・カミュとかいう芸能人がいたな、と思い浮かべる。
「いえいえ、神です」
「えっと、それはつまり……」
優作はいよいよ逃げる態勢でもって尻を傾けた。
「GOD?」
「YES」
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