1 秘密①

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1 秘密①

 俺が彼と初めて会ったのは半年ほど前の事で、場所は会社帰りにいつも立ち寄るコンビニだった。  彼は背が高くわりとがっしりとした体格をしていて、顔は整っているものの愛想もなく威圧感のある鋭い目つきをしていた。まるで獰猛な熊かなにかのようで、目が合っただけでがぶりと頭から齧られてしまいそうだ。  だけど俺は彼の事を怖いとは思わなかった。確かに近寄り難い雰囲気ではあるが、彼は誰かれ構わず暴力を振るったり脅したりするようには見えなかったからだ。  ただ目つきが鋭いだけの人を怖がって嫌うのはおかしな話だろう? *****  彼がそのコンビニでバイトを始めて三ヶ月が過ぎる頃には、「下手な事をしなければ大丈夫?」くらいには彼に対する意識が緩和されたようだったけど、積極的に話しかける人はいないようだった。彼のレジに並ぶお客も仕方なくといった様子だ。  バイトちゃん(女の子のバイト)は相変わらず彼の事を怖がっていて、店の隅っこで震えながら息を潜めているだけだし、彼はというとその子に声をかけるでもなくただ黙々とバイトちゃんの分も働いていて、なかなかにシュールだ。  これを見て大抵の人は女の子の方を可哀そうにと思うかもしれないけど、俺はそうは思わなかった。彼の方がよっぽど可哀そうだ。最初に見かけて以来なんとなく視界に入ってくる彼。俺が知る範囲での話だけど、思ってた以上に彼は真面目だった。他のバイトがうまくさぼっていても文句も言わず、まるで何年も勤め上げたベテランみたいに無駄なくしっかりと働いていた。  笑顔こそ見せないし威圧感半端ないけど、仕事ぶりは丁寧でお客への気配りだって忘れない。ただそれが全部誰にも認識されず、多少緩和されたとはいえ『怖い人』というイメージは未だ残ったままだ。きちんと評価されない彼に、立場や年齢は違えど自分に近いものを感じていた。  その頃はただそれだけで、俺と彼との関係はアルバイトとお客、それ以上でもそれ以下でもなかった。
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