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③
俺は34才の冴えない中年で、彼はいくつかは分からないが高校生だ。こないだ見かけた制服は近くの高校のものだった。俺からの好意なんて、普通に考えて気持ち悪がられるだけだ。
だけど初めての恋は俺を大胆にさせた。
それも俺の『秘密』があってこそ――――。
*****
俺には昔から特技のようなものがあった。
綺麗なもの可愛いものが好きで、自分を着飾るのがうまいという事だ。
元の自分を消し去り、可愛く綺麗に作り上げていく。
一重の瞳も何の主張もしない小さな口もしなしなの髪の毛も、ただ白いだけで幽霊とも思える肌も――全部俺の手にかかれば美少年へと生まれ変わる。
変身後、鏡に映る自分の姿ににっこりと微笑んでみる。
本当の自分とはまったく違う姿。可憐でふわふわと柔らかそうで、この姿であれば彼と自然に言葉を交わす事もできるのではないだろうか。バイトちゃんのように――――。
実はこの姿になる事で俺はストレスを解消していた。
仕事でのストレス、人間関係のストレス。周囲と俺はお互いに無関心だけど、まったく関わらないというわけにもいかない。小柄で自己主張のない俺は簡単に言うと軽く見られやすい。実力も努力もないものとして扱われる。かといっていじめられるといった深刻なものでもないし、無駄に期待されない分楽だとも言えた。
だけど何をどう頑張ってみても、頑張りも成果も認めてもらえないというのは虚しいと思う。最近の俺は、彼を知るにつれそう感じるようになっていた。
俺と彼は同じなのだ。
彼は仕事もできるし真面目で優しい。だけど怖い人というイメージが強すぎて周りからは何も評価されない。俺の場合は弱すぎるからだけど、正しく評価されないという点では同じだ。
最初はただの同族に対する親しみや応援だったのかもしれない。彼の本当を分かっている人もいるんだと彼に知って欲しかっただけだったのかもしれない。
それがいつの間にか彼の事を本気で好きになってしまっていた。
彼が孤立する事をよしとしないのに、彼の優しさを知るのが俺だけだという事に喜びを感じてしまっていた。
俺のこの姿は誰かに見せるものではなく、自分で見て楽しむ為のものだから家の外になんて一度も出た事はなかった。
通販で買った今時っぽい可愛い服に身を包み、この姿で初めて外へ出る。
その瞬間から俺は、『俺』から『僕』になる。
僕の名前は染、高校生――。
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