2 接触 contact①

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2 接触 contact①

 とりあえずはゼンの姿で彼がバイトするコンビニへ毎日通って、同じ物を買おう。それで〇〇さん、って勝手にあだ名を付けてもらえたらラッキーだ。  できれば可愛いあだ名がいいから……うーん――――。  と、かれこれ一時間ほど棚の前でよさげな商品を探していた。  ふと目に入ったのは〇〇〇〇太郎という名前のお菓子。いや、まさか。自分の名前が入っているからといってこれは流石にないよな。と、近くにあった苺味のチョコを手に取る。  『苺ちゃん』『チョコちゃん』うんうん。なかなかいいじゃないか。  レジを見るといつも通り列の長いチャラいイケメンバイトくんと列の短い彼のレジ。チャラ……チャラメンでいいや、最近彼はチャラメンと組んでこの時間帯にバイトに入る事が多い。バイトちゃんがあまりにも彼の事を怖がって仕事にならないからそういう事になったのだろうか。  結局何も変わらなかった、という事か――。  ふぅ……と少しだけ息を吐き、これでよかったとも悪かったとも考えない事にした。どちらにしてもそれは彼というより自分にとって、という事になってしまうからだ。結果はともかく彼の為を思ってやった、それだけなのだから。  チャラメンは基本彼の事はスルーしているが、彼が本当は怖くない事に気づいているのかもしれない。その事は評価できるけど、文句を言わないのを良い事に明らかにふたりの仕事量のバランスがおかしい。  レジと他の仕事の差なんてものは俺には分からないし、チャラメンの方のレジにはいつも並ぶ人が多いけど、そんなのはたかが知れている。無駄口も多いし、彼と一緒の時にレジ以外の事をしているところを見た事がない。それに彼だってレジを全くやらないわけでもないのだ。そう考えるとチャラメンは楽をする為に彼と組んだのだと分かる。笑顔で搾取できるチャラメンは、俺が一番嫌いなタイプの人間だ。  少しでも彼には休んで欲しいけど、彼がレジに居たら俺は迷わず彼のレジの列へと並んだ。順番がきて、できるだけ可愛く見えるように苺チョコを出した。  ピッという電子音の後、「140円になります」という彼の低い声を聞く。  これをまぁ約二ヶ月ほど繰り返した。  服も同じ物にならないように何着も買い足して、今や俺のクローゼットは()()の物ばかり。我ながらよくやると思うが、その時の俺には彼にどうにかして自分の事を認識して欲しいと思っていたし、できれば好きになって欲しいと思っていたからそんな散財なんて気にもしていなかった。  ただ、食べきれず部屋の半分を占拠してしまった苺チョコの箱がそろそろヤバいなぁと思うくらいだった。
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