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だけど僕は、もしも綾が来世で綾じゃなくなっても、また必ず彼女の元へ辿り着いてみせる。
そして今度こそ、彼女と2人で沢山色んな場所に出かけるんだ。
憎らしい雨を背中に受けながら僕はもう動かない綾の華奢な屍を抱きしめて今度は紛うことなき涙を流した。
もう生きたくないと思ってしまった綾はどれほど苦しかったのだろう。
今日この時まで綾は戦い続けていたはずだ。
もしも君が僕を好きだと想ってくれていたのなら、僕はそれだけで幸せ者だったと実感出来る。
もしも僕が君なら僕は君の苦しみを分かってあげられたかもしれないけど、ごめん。
僕は君の好きな人で居てよかったと思ってしまったよ。
僕は君に愛されたかった。そんな存在になりたいと強欲な僕は思ってしまったから。
だから君が最期になることを分かっていて、君の願いを受け入れたんだ。止めなかった。
君に最期まで好きでいて欲しかったから。
こんな僕を許してくれ、綾。
いつか僕がそっちに逝ったら。
そう、もしも僕がもう一度君に逢えたとしたら。
その時は君からの口付けを貰うからね。
もしも僕が君なら綾という存在が僕になっていた保証はない。
なら僕達がこうして確実に出逢えたこの世界を僕は愛すよ。
この世界でよかったんだ。
この運命で良かったんだ。
そうして自分で言い聞かせることだけが唯一屍になった綾の存在を肯定する行為だった。
一向に晴れ間が見えなかった山の天気が突然変わって、一筋の光が差し始めた。
「あぁ…本当に、山の天気は変わりやすいなぁ」
腕の中で眠る綾の頬を撫でながら、空を見上げて呟いた。
~完~
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