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01~下界へ
下界といっても広いのだ。どうせなら人間人口が一番多い月華国におりよう。そう思い割りと小さな農村のボロ屋に狙いを定めておりるつもりであったのだが――
――なにを、間違ったかちょっとはずれた農道に出てしまった。
天界からの光道が閉じる。
「ヤバい、ずれた」
辺りをキョロキョロとするとちょうど藁を乗せた牛車がガラゴロと通り、その牛車を引いていたじいさんに頼んで荷台に乗せてもらうことにした。
荷台がガタガタと揺れる。
中リュックの中をあさるセラ。日時計を出すと時刻は夕方の刻をさしていた。もうすぐ日が落ちるのか下界は。
サァーっと、気持ちの良い風がふき目の前にキラキラと輝く深紅の鳥が羽を一枚落として行った。
『綺麗な羽……』
セラは、赤い羽を拾い上げ言った。
「その荷物持ってどこにこれから行くの?」
気がつくといつの間にか隣に見知らぬ若い綺麗な男が乗っていた。その男は、赤い瞳に黒いさらさらとした長い髪をポニーテールにし赤い組み紐で結っており衣も深紅なので目に一瞬で焼きついた。
『人間、かな……?』
セラはそう思ったが
「一人で神様でも祭り上げて神社でもつくったらお金でも入るかと思って家を出たの」
っと、適当に言った。
「なんの神様?」
綺麗な顔で首をかしげる男。
『まさか、私を祭る』
とは、言えないので
「古骨董の神様」
っと、言った。
牛車が竹林に入った。
「貴方は、どこへ行くの?」
今度は、セラが男に訊いた。
「俺は家出。家は長男である兄上が継いでいるからお前は、顔も知らぬ金持ち娘の婿養子になれと言われてね。嫌で逃げて来たんだよね」
ガッタン!
突然荷を引いていた牛が足をとめてしまったのである。
綱を引いていたじいさんが鞭で叩いたが牛は前に進むどころか後ろに下がってしまう。
「何かに怯えているね」
男が前の方をじっと見つめるのでセラもそちらに目をむけて見る。
「小鬼!?」
前の薄暗い竹林からボウッと小鬼が二体出てくるのがわかった。
「ひぃぃぃ――ッ! 喰われる!!」
慌てて綱を引いていたじいさんが逃げようとするのでセラは
トンッ!
っと、急所を指圧してじいさんを眠らせた。
騒がれたらめんどうなんで……
「へ~君、面白い術を使うね」
男は、特に驚く様子もなくそう言った。
「どうします。まだ奴等は我々に気がついてないようですよ」
セラは、男に言った。
「何か策はあるの? 俺は怖いから藁に隠れてるよ」
男は、そう言って藁に身をさっさと隠した。
『助けれくれる訳ではないのね……』
セラは、ため息をつくと衣の裾から天界の聖水を牛車に振りかけて身を奴等から消してみせその場をやり過ごすことにした。
小鬼がボウッとやってきたが、牛車に近付くとそこで弾かれてしまった。
「あれ、ここから進めない……」
もう一体も確かめる
「本当だ。入れない……こっちなら通れるぞ」
「本当だ」
マヌケな小鬼どもは、そのままその場を通りすぎてくれた。
「へ~君、本当に面白い術を使うね」
顔を藁から出して男が笑う。
セラは、たいした気分を害するわけでもなく
「このまま、私が牛車を引くの家までとりあえず行きましょう」
そうして、馬車が我がボロ屋についた時には辺りはもう真っ暗になっていた。
じいさんの術をといてやり目を覚まさしてやると
「あれ? 小鬼は?」
っと、言った。
セラは
「我が神様がお守り下さいました」
とか、適当こいてじいさんと牛車を帰した。
「私も帰って寝よう」
そう言って中へ入ろうとすると……
忘れていたが男がいた。
「あれ、貴方いくあてないんだっけ?」
「ない……」
男がそう言うのでとりあえず中へ入れてやることにした。
その日は、もう眠いのでロウソクの火をフゥーっと消してなにもない床の薄い藁の敷物の上で並んで二人で横になった。
『俺、男の姿なんだが……』
男は思って横でなんの反応もしないですやすや眠る女の顔を照れながら見つめたのであった…………
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