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朝、瞳をゆっくりあけると隣に男の姿はなかった。
家の中は、広いとはいえない一間しかない質素な創りである。かろうじて釜戸と水をくみ上げる手押しポンプがついているのは救いかもしれない。庭の柵を出たところであたりには田んぼがあるくらいで町にも一キロは歩かないと入れない。
「不便過ぎて出ていったかな?」
セラは、立ち上がり水盤台に行くと手押しポンプからくみ上げたを水を木製おけに並々入れた。
『生花に顔を突っ込んでいる夢をみた』
そんなことを考えながら顔を洗っていると
トントンっと、ドアを叩かれた。
「はい?」
ドアを開くと昨日の牛車のじいさんが立っていて果物やらなにやらを昨日の礼だと言ってくれた。
『まだ、祭ってもいないうちに供物がくるとは、たいした古骨董の神様だなぁ』
そう思いながらとりあえず作った祭壇の長いテーブルの上に果物を乗せた。
一応パンパンと手を合わせてみたりした。
鈴とか賽銭箱とか色々ないと格好つかないわね。
ぐぅ――
そう言えばなんも食べてない。
なんか、買いに行こう。
そう思い外へでると、藁やら木の板やらを持った赤い男が帰って来た。
「……もう、来ないと思ってた」
セラは、言った。
「なぜ? 俺、行くとこないのに」
男は、応えた。
セラは、
『この人本当に何者なのかしら? 妖怪のたぐいかな? けど、こんなにちゃんとした人間に化けれるものかしら……』
っと、じっと男を見た。
男は、不思議そうに自分の首をかしげている。
セラは疑問をいだきつつ
「ねぇ、貴方名前なんて言うの?」
っと、とりあえず訊いてみた。
いつまでも名前知らないのもねっと思ったからだ。
「好きに呼んでくれて構わないよ」
男は、にっこり笑って言った。
『教えたくないのか? 名前……』
セラは、少し考え、あたりに生えている花を眺めた。
「んじゃとりあえず、鳳仙で良い? 赤いし貴方」
セラは、生えていた赤い鳳仙花を一本とり、男に渡してにっこりと笑う。
男もそれを受けとるとにっこり笑って
「鳳仙ね。気にいった」
っと、言ってくれた。
「それより、それなあに?」
セラは、鳳仙の持ってきた物に指差し訊いた。
「さすがにボロ屋に、男女二人は不味いから仕切りとかになりそうなものと屋根やら直そうかと思ってね。運んで来たけど、お腹減ってきたね」
男は、縁側にそれを置くとお腹に手をおいた。
「あっ! そっか私何か買いに行こうと思ったんだったわ」
セラは、大袖から小銭入れの巾着を取り出すと言った。
「食い物なかったんだね……そんじゃついでに色々買いに行こうかセラ」
鳳仙はそう言ってさりげなくセラの手を引いた。
セラは、手を引かれながら
『私、名前教えたかしら?』
などと考えていたが
ぐぅ~っとまたもお腹がなるので
今はご飯が大事よね。
っと些細な事は忘れる事にし朝一や飯屋の並ぶ場所へと二人で歩いて行くことにした。
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