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「立派な為政者になって迎えに来るって、約束しただろ?」
「子どもの戯言よ」
「ガキなりに、俺は本気だったよ」
「……私だって、そうなればいいって思ってたけど」
だけど、曲がりなりにも王女であるかぎり、そんな自由はないと思っていたし、なにより王女であって王女と敬われていないマリエンテは、誰にも望まれないと思っていたのだ。だから、放逐される気満々だったのに。
「放逐された王女より、王家から直々に賜ったほうが外聞がいいじゃないか。まあ、仕組んだのが父だから、そこは悔しいところだが」
「小父さまが?」
「マーサも君を待ってるよ」
「マーサが!?」
一体いつから、どこまで計算されていたのか。
フェリオの手が頬に触れ、マリエンテは自分が泣いていることにようやく気づく。
「マーカスが起きるまでには泣きやんでくれよ。君の夫になるまえに、俺が天国行きになっちまう」
「……明日が楽しみなんて、きっと生まれて初めてよ」
泣き笑いを浮かべる娘の手を、青年はそっと握りしめる。
この手に指輪を捧げるには、まだ少し早い。
「俺も明日が待ち遠しい。お互い、独身最後の夜を楽しもうか、マリー」
寝息を立てる兄に内緒で、マリエンテは初めてのワインを、唇で味わった。
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