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「いまさらだろ。レギアス王国のみんなが知ってる話だぜ、好色のお姫さま」
国王には、跡継ぎである王子の他に、四人の姫がいる。
ただ四人のうち、二人は正妃の腹ではない。高位貴族の側妃と、異国の踊り子が産んだ子である。
彼らの言う第四王女とは、踊り子が産んだ娘だ。
巡業に訪れた妖艶な美女を王が寝所に呼び、夜ごと相手を務めた結果、ふた月の興行のあいだに妊娠が発覚。当時はまだ王子がいなかったこともあり、彼女は異例の待遇で王宮へ迎えられた。
ところが産まれたのは女。
翌年には側妃が男児を産んだことで立場をなくし、赤子を置いたまま姿を消したという。傍仕えだった男と逃げたのだ。
正妃は赤子を王宮に留めることを許可し、乳母を手配。男児をもうけた側妃も冷遇することなく、国母として慈愛の心を示した王妃を評価する声は高い一方で、それを無下にしているのが噂の第四王女・マリエンテなのである。
踊り子であり男と逃げた女の血を色濃く引く姫は、十四歳のころから男を寝所に引き入れていることで、貴族令息の中で有名だった。
舞踏会は、マリエンテの狩り場と揶揄されるほどで、一夜毎に相手が変わる。後腐れのない相手を望むと宣言し、了承した者しか相手にしない。
そのため必然的に遊び人と名高い独身者や、政略結婚ののちに仮面夫婦となっている妻帯者などが多く、男たちの社交場であるサロンで情報共有され、いつしか姫の相手はそこからの紹介制が主となったとか。
「騎士さまたちも、お相手したことがあるのですか?」
「いや、俺はサロンには出入りしてないから」
「でしたら、噂が本当かはわからないのでは?」
「何十人って男が証人だからなあ」
「踊り子らしいグラマラスな身体と王族らしからぬ黒い髪。殿上人しか立ち入れないエリアに招くことができるのは、第四王女だけだろ」
粗野で乱暴な口調ではあるが、彼らも貴族。王宮警護を主とする近衛騎士に属していることを、給仕の娘は知ってる。なにしろ自分からペラペラと話してくれるのだ。くちが滑るどころではない。騎士の資質を疑うレベルである。
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