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第四王女は出自のこともあり、王族がこなす公務に参画することはない。表舞台に立たないため、彼女の顔を知っている国民はいないといっていい。
にもかかわらず、下世話な方面で名前が通っている。
豊満な身体をした、黒髪の娘。
髪色だけなら、地方の民にもある特色だが、彼女は王族の証である黄金の瞳を持っている。これだけは決して偽れない。
だからマリエンテは、店で働くときには色補正のかかった眼鏡をかけるようにしていた。哀しいかな膨らみに欠ける胸には、ある種の感謝をしている。おかげで醜聞王女に間違えられることはない。やや虚しい。
王妃のもとで過ごす日々は、なかなかに壮絶だった。年の近い三の姫・デリツィアは、もっともマリエンテを見下し、尊厳を落とすことに命をかけていた。
十六歳で社交界デビューすると、黒髪の鬘を用意してマリエンテと名乗り、男たちの花と化したのだ。
彼女がサロンの悪女として君臨したおかげで、第四王女の色狂いは界隈で有名である。その噂がついに国外にまで及ぶようになってしまったことで、王はマリエンテを国内の貴族に嫁がせることに決めた。
ここで困るのが、誰に嫁がせるか、である。
主だった貴族からは、やんわりと断られる。娶るのならば他の王女がいいと、遠回しに言ってくる者が大半で、大臣らは悩んだ。
上の姫たちは相手が決まっているが、三番目のデリツィア姫はいまだ婚約者がいない。父である国王が溺愛している姫でもあるため、狙い目はほぼこちらなのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、戦士を多く配する東部のイェルク地方を治めるディエン・バッヘム伯爵。
御年五十歳。十年前に妻をなくして、現在独身。
ここ数年の小競り合いに一役買った伯爵家に報いるために、王女を嫁がせる。
体裁は整っている。
問題ない、なにも問題はない。
そんなわけで、マリエンテ王女は、父親と大差ない年齢の男性に嫁ぐことが決定したのだ。
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