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店の食料を開放する勢いで、マーカスは料理を出してくる。マリエンテはすでに満腹だ。こんなに食べてしまってはお腹が膨らみすぎて、明日の服が着られなくなってしまいそう。
国の飲酒年齢には達していないマリエンテはノンアルコールだけど、男二人は違う。戦士は総じて酒飲みだ。杯を重ね、ボトルがどんどん空いていく。
メソメソ泣いているマーカスの姿に呆れていたマリエンテだが、時間の経過とともに胸が苦しくなってきた。
これがきっと「寂しい」という気持ちだ。生まれてからずっと精神的な支えだったマーカスと、物理的に距離が離れるのだということが、急に実感を伴って襲ってくる。
婚姻の儀が執り行われたあとは、身ひとつで出立する。
ゆっくり日数をかけて、各地を巡りながら、婚家へ向かうのだ。そこに、マーカスはいない。
書類上の夫となるディエンには、何度も会ったことがある。大きな身体をしているけれど、フェリオ同様、笑顔の優しい素敵なひとだ。こんなお父さんがいて羨ましいと思っていたが、夫になるとはさすがに想定外。だが、きっと良くしてくれることだろう。
相手が発覚したとき、そういえばデリツィアが笑っていた。壮年男性が相手だったことが、可笑しくて仕方がなかったらしい。
「キャハハ! マリエンテには似合いの相手じゃない」
「そうですね、デリツィアさま」
「あんたは異国の血を引いた下賤の民だし、おっさんはちょうどいいわ。大丈夫よ、その御年だし、熱心に寝所に誘われることもないでしょうから、あんたが生娘であることはバレないわ」
王妃さまも異国の方ですから、あなたも異国の血を引いているんですけど、そのことについてはどうお考えでしょうか。
五十歳の伯爵をまるでおじいさんのようにおっしゃっていますが、あなたが以前にお相手した侯爵さまも、それと同じぐらいの方でしたよね。聞きたくもない猥談をありがとうございます。
お気づきでないようですが、その前日に寝所を共にしたという青年男爵は、侯爵さまのご子息ですよ。貴族名鑑、きちんとご覧になってくださいね。
顔で笑って、心でも笑う。
これもマリエンテの日常風景のひとつ。
デリツィアは、どういうわけか、自身がおこなった行為を開示するのだ。マリエンテはすっかり耳年増となってしまった。
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