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行かないでくれ。
当時5歳であった少年はそう心の中で叫ぶが、その声は目の前に立っている少女には届かない。少女は目の前で艶やかな空色のショートカットの髪を揺らしながら、見惚れてしまうほどに綺麗な鳶色の瞳で見つめてくる。
同い年に見える少女であるが、艶麗な天使という言葉が似合う綺麗で美しい顔をしていたのを覚えている。どこから来たのか、どうして目の前に現れたのかは分からないが、好意的に接してくれたのは嬉しかった。
「私とお友達になってくれる?」
初めて会った時の第一声がこれだ。
突然お友達になってくれるかと聞かれても戸惑ってしまうが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「うん、いいよ。俺の名前は黒羽出雲、よろしくね。君は?」
「私の名前は夕凪美桜よ。これからよろしくね」
綺麗な笑顔を向けられた。
子供ながらに美しいと思ってしまう。いわゆる初恋なのだろうか。心臓が次第に高鳴るのを感じる。出雲は耳にかかるまででの黒髪を風で揺らしながら、頬を掻いていた。
「早速だけど、どこかに連れて行って。私ここに始めてきたの」
「そうなの?」
「うん。少し前まで遠い場所に囚われていたから」
その時は囚われているという言葉を気にしなかった。
特に意味が分からなかったし、外に出る機会がなかったのかと思っていたからだ。
「この辺りだとどこかなー。公園とか楽しいよ」
「聞いたことあるわ! 色々な遊具がある場所でしょ! 行ってみたい!」
綺麗な瞳を輝かせて行ってみたいと連呼をする美桜。
それほどまでに行きたいのかと若干引いてしまうが、ご希望通りに連れて行くことにした。
「凄い! 沢山の遊具がある! これはブランコっていうやつね! こっちは滑り台がある!」
まさしく子供のように楽しんでいるようだ。
近くから見守るように美桜が遊んでいるのを見ていると、辺りが暗くなってきた時点で帰ろうと話しかけてきた。
「もういいの?」
「今日だけじゃないし、また遊んでね」
「もちろんだよ。俺の家は今日あった場所にあるから、いつでも来てね」
「うん! ありがとう!」
初日はそれで別れた。
それからは毎日のように会い、多くの思い出を積み重ねていたある日、美桜の様子がいつもと違ったことに気が付いた。
「どうしたの? 何かあったの?」
顔を伏せて何やら考えている様子だったので、心配で声をかけた。
すると美桜はパッと顔を上げて、出雲の手を握りながら笑顔で目に涙を溜めていたのである。
「さようなら」
たった一言、美桜は言葉を発する。
目から涙が零れ落ちながら笑顔は崩さない。出雲の手を力強く握り続けると、背中を向けて歩き出してしまう。
「ど、どうして!? どうして急に!?」
叫ぶが美桜は振り向かない。
聞こえないふりをしているのか分からないが、肩を震わせているのが見える。それでも出雲は叫び続けるが、振り向く素振りはない。
「必ず迎えに行くから! 待ってて! 絶対に会いに行くから!」
大声で叫ぶと、一瞬こちらを向いた気がする。
今はそれでいいと思いながら、出雲は国を守る要である魔法騎士団に入団をし、魔法騎士として夕凪美桜を迎えに行こうと決めた瞬間であった。
「一番有名な職業である魔法騎士団に入団すれば、美桜と出会える確率が上がるかもしれない。難しいかもしれないが、俺は必ず成し遂げて迎えに行く! 必ずだ!」
夕凪美桜と出会って、出雲の進むべき道がこの時に決まったのである。
それから時は進み出雲が15歳となった時、別れた運命が再度巡り会うのであった――。
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