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「今日こそは一本を取ります! 俺は強くならなきゃいけないんです!」
木刀を構えている出雲。その様子を目の前にいる源十郎と周囲にいる通行人の人達が見ていた。
未だに同乗の敷地内に入っていないので、周囲の通行人達がまたやってるよと微笑ましい視線を出雲に向けていた。
「頑張れ門下生ー。今日こそ髭仙人に勝てよー」
「そうだよ! 負けっぱなしはダメだよー!」
大人から子供まで応援をしてくれる。
その声を耳に入れながら、勝ちますと声を上げて源十郎に向けて駆け出した。
「威勢だけは良いみたいだな。それだけじゃ勝てないぞ」
飛び上がって木刀を振るうと、簡単に防がれてしまう。
細い体のどこにそんな力があるのかと不思議に思うが、源十郎が以前魔力で身体能力を上げていると聞いたことがあった。
「もしかして魔力で身体能力を!?」
「ほう。どこかで聞いたのか? そうだ。魔力を操作することを覚えたら俺のような体でもお前のような若者と同等の身体能力になれるんだ。ということは、お前が身体能力を上げられたらもっと強くなれるぞ」
「教えてくださいよ!」
鍔迫り合いながら言うが、源十郎は自分で見つけろとして言ってくれない。
「見つけろって言ったって……どうすれば……」
ガキンという音が木刀からすると、一度距離を取ることにした。
特殊な加工をされている木刀なので、金属音に似た音が発生する。普通の木刀であれば既に折れているが、特殊な訓練用の木刀なので折れていない。
「お前は魔法騎士団に入りたいのだろう?」
源十郎が突然魔法騎士団の話を振ってきた。
どうして入りたいことを知っているのか分からない。
「入りたいのならこれくらいは基本だぞ。会得をするんだ!」
「そう言われたって! どうしたら!」
瞬間的に距離を詰めて連続で突き攻撃をしてくる源十郎。その攻撃を木刀でずらしながら首を左右に振って避ける。
いくら木刀とはいえ、当たればただでは済まない。それが特殊な加工をされているモノであればな猶更である。
「魔力を感じろ! 全身に行き渡らせて血液のように循環をさせるんだ!」
「そんなことを言ったって!」
悩んでいるとヒントをくれた。いつもそうだ。源十郎さんはヒントをくれる。解決法は教えてくれないけど導いてくれるんだ。
教えてくれたヒントを頼りに両足に魔力を巡らせると、一瞬で源十郎の背後に回ることができた。
「動けた!? 成功した!?」
目を輝かせて喜んでいると、油断をしたなと木刀で腹部に突きを受けてしまう。
「ゲッホ……ガッハ……」
「一度できたからって油断をするな。だから攻撃を受けるんだ」
地面に両膝を付いて何度も咳き込んでいると、道場から一人の女性が駆け寄って来るのが見えた。その女性は出雲と同い年の現当主の娘である。
「大丈夫!? またお爺ちゃんが本気でやったんでしょ!」
「いや、俺はそこまでは……」
「すぐ俺はって言う! 普段はワシって言っているくせに、出雲君と訓練をする時だけ俺って格好つける!」
茶色の肩にかかるまでのショートカットの髪を揺らし、綺麗な水色の瞳で源十郎を睨みつけている彼女の名前は天竜麗奈という名前だ。
出雲とは違う中学校に通うが、道場でよく会うので自然と仲良くなったのである。
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