私は今日も、薬草を育ててます。

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 翌日。  険しい顔の村長に、村人全員が呼び出された。  こういう時は、絶対良くない報告だ。  が、今回ばかりは、村長の言葉を待つことなく、その理由が分かった。    村長の後ろには、商人に売ったはずの薬草がてんこ盛りに積まれていた。   「もう……薬草いらないって……返品されちゃった……」    村長が、小さな声で言った。  魔王が退治され、世界は平和になった。  予想通り、魔王退治を目的に旅をしていた冒険者たちは、次々武器を置き始めた。  が、私の予想以上に薬草の需要がなくなり、薬草が次々と返品され始めたのだ。    勇者め……。    いや、うん。  勇者は正しいことをしたんだけど。  うーん……。   「ど、どうするんですか……村長……」    お隣のお兄さんが、心配そうに村長へ声をかける。  薬草バブルにのっかって、村長は大きな利益を上げるための投資として、商人からどんどん金を借り、たくさんの道具を買ったり、作業用の倉庫を建てたりしていた。  しかし、薬草の需要がなくなってしまえば、これ以上の投資の回収は見込めない。  残されたのは、商人への莫大な借金のみだ。   「ううむ……」    村長は、眉間に皴を寄せて、苦しそうにうなる。   「わしも年だ。そろそろ若い者に後を任せて、身を引く時期なのかもしれぬ」   「え?」   「ちゅーわけで、たった今からお主が村長じゃ! 後は任せたぞ!」    お隣のお兄さんを指差しながら言い、すたこらさっさと村の入り口に準備していた馬車へと乗り込んで、どこへともなく去っていった。  あまりに突然のことに、私含めた村人の誰一人、すぐには動くことができなかった。  呆然と、遠くへ去っていく馬車の背中を見つめる。   「……あの爺いいいいい! お前ら! ボケッとすんな!! 捕まえるぞ!!」    そして、お隣のお兄さんの怒声を皮切りに、村の男たちがとんでもない剣幕で追いかけ始めた。   「まてやごらあああああ!!」   「てめぇのケツはてめぇで拭きやがれ!!」   「商人から借金すること決めたの、てめぇだろおおおおお!!」   「ひょえええ!? 速く! 馬車をもっと速く走らせてくれ! お代は弾む!! 速く!!」    私は、呆然とその様子を眺め、溜息を一つこぼした。   「薬草の水やりしよ……」    そしていつも通り、畑に向かった。
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