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後日談だが、元村長は、村に残った僅かな金をもって逃亡中。
未だに見つかっていない。
次会ったら肥溜めに沈めてやる。
お隣のお兄さんは、元村長の指名という事もあり、村のしきたりに則って不本意ながらに新しい村長を襲名した。
お兄さんはまだまだ若いので、村のおじいちゃんたちが抗議こそあったものの、村のしきたりを覆すことは難しく、お兄さんは村長のままだ。
その代わりお兄さんは、自分は若輩だからと、村長がやっていた仕事を切り離し、新たに副村長や農業管理担当と言う役職を作っておじいちゃんたちを就任させることで、落としどころとしていた。
幸い、争いはない。
村の借金についても、お兄さんは商人と何度も交渉を重ねて、村が破産しない程度の支払い方法で合意を得ていた。
国王様が商人たちへ、冒険者たちのために薬草を作っていた村への配慮をするようお達しを出してくれたのも大きい。
私はと言うと、薬草を育てる以外に、日課がもう一つ増えた。
「完成! 薬草団子に、薬草饅頭に、薬草茶。美味しくできたと思うので、食べてみてください」
薬草を使ったお菓子作りだ。
返品された薬草を捨てるのも忍びなかったので、薬草を使って何かできないと考えた結果だ。
村の次の名物を目指してるってほどたいそうな志はないけど。少しでも売れて、村の借金を返す役に立てたらなーってくらいは思っている。
「この団子、美味しいぞ!」
「饅頭も旨いけど……もうちょっと甘さが欲しいかな」
「薬草茶は……んー、まずい! もう一杯!」
「なるほどなるほど、次に作るときの参考にします!」
今回の新作は、村での評判も上々。
薬草団子だけは、今度商人が来た時に食べてもらって、町で売れそうなら薬草の代わりに売ってもらうんだ。
「おーい皆、勇者様から手紙が届いたぞー!」
勇者め……。
私の褒められタイムを……。
どこまでも私の邪魔をする。
お隣のお兄さんの言葉に、周りにいた村人たちが集まる。
お兄さんは、勇者からの手紙をつらつらと読み上げていく。
この村の薬草は品質が良くて助かったとか、この村の人々の協力がなければ魔王は退治できなかったとか、要約するとありきたりな感謝の言葉が並べられていた。
「とのことだ」
「感謝の言葉よりお金が欲しいですよね。感謝の言葉なんて、お腹も膨れなければ、村の借金も減らない」
「こら! 勇者様から直々にお手紙を頂けることは、名誉なことなんだぞ!」
「でも、お兄さんも同じ気持ちですよね?」
「村長だ!」
「同じ気持ちですよね?」
「……ノーコメントだ」
ま、いろいろ思うところはあるが、私の育てた薬草が少しでも役に立ったのなら、嬉しくないことはない。
うん。
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