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地獄の開始から一か月が経過した。
「水やり二刀流ううううう!! あっひゃっひゃっひゃっひゃー!! おっぱっぴいいいいい!!」
私はいつも通り、日課の水やりをこなしていた。
淡々と。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃー!!」
いつもなら気さくに話しかけてくるお隣のお兄さんも、最近は私が水やり中には決して話しかけてこなくなった。
お兄さんの狩猟数のノルマも引き上げられているので、忙しいのだろう。
「うぇっひいいいい!! おわっだー!!」
全ての薬草への水やりを終え、私は畑にパタンと倒れる。
服が汚れてしまうが、それ以上に体力回復が最優先だ。
やむを得ない。
「お、おう、お疲れ」
倒れ込む私の元に、苦笑いをしたお隣のお兄さんがやってきた。
「あびゃー。びゃびゃびゃびゃー?」
「言葉が戻ってないよ!?」
「あーお兄さんー。どうしましたー?」
「あ、よかった戻った。仕事の調子はどうだい? 大変かい?」
「超大変ですよー。仕事量、普段の倍ですからねー。倍」
お兄さんは、私が水やりしていた薬草畑を見渡して、再び苦笑いをする。
「広いね」
「広いですよー。普段の倍ですからねー。倍」
それもこれも勇者のせいだと、私は心の中で悪態をつく。
いや、半分は村長のせいだが。
あの爺め、村がカッツカツだと言いながら、先日町の可愛い女の子に気前よくご馳走したらしい。
なにやってんだ、あんちくしょう。
可愛い女の子ならここにいんだろうが!
私に貢げよ!
「そういえば、勇者様がついに魔王討伐の旅に出られたらしい」
「え!? むしろまだ出てなかったの!?」
「旅支度には、時間とお金がかかるんだよ。多分」
私がこんなに大変な思いをして仕事をしているというのに、勇者一行は未だにお仕事である魔王退治を始めてさえなかったと聞くと、何やら釈然としないものがこみ上げてくる。
とはいえ、勇者が旅に出ようが出まいが関係ない。
私がやることは変わらない。
薬草を育てるだけだ。
「勇者め……」
だがしかし、愚痴を零すのだけは許して欲しい。
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