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例えばの話、世界がゾンビで溢れかえって、どこかに籠城しなくちゃいけなくなったとしたら、私は迷わず本屋さんを選ぶ。
食料とか武器とか医療品は、生き残りたい人が確保するものだ。私は、たぶん、ゾンビの世界で生きることに執着できない。
それは、諦観。
いろんなことを放棄して、私は本が見せてくれる幻の世界に浸る。――なんて言ってみたけれど、これは別に、ゾンビの世界でなくてもしていることだ。
なぜか分からないけれど、私の心は「諦め」に支配されている。
つまりは、生きる気力がない。
でも、私の心臓は動いているから、毎日時間を潰さなければいけないわけで。
そこで目をつけたのが、本。
自分の時間を消費して、他人の時間を擬似的に生きる。
素晴らしい暇つぶし法だ。
そんな私に、本の虫が取り憑いた。
虫といっても、本物の虫じゃない。
たんぽぽの綿毛みたいな、小さな綿あめみたいな……うまく言えないんだけど、とにかく、私が本を読んでいる間、白いモコモコが肩の辺りに浮いてるの。
最初は目障りだったけど、慣れてくると愛着が湧く。
「モココ、BOOK」
私が本を閉じる合図をすると、本の虫――モココは「ぽわん」って栞になる。
この「BOOK」っていう呼びかけは、私が考えた。
意味は簡単。犬でいう「ハウス」ってこと。
「じゃあ、行ってきま――違った。生きてきます」
私の時間を生きてきます。
行ってきますの代わりに使う、私とモココだけの挨拶。
返事はない。
それが私には心地いい。
モココは栞になって、私が本を開くのを静かに待っている。
忠犬みたいな、私の可愛いペットなんだ。
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