その1

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「物を失くす時ってさ、失くした瞬間は覚えてないんだよな、当たり前だけど」 「覚えてたら、それは失くさないからな」 「時々、思うんだ。物と会話できたらいいのにって」 「はい?」 「そしたら、居場所も聞けるだろ? ほら、部屋のリモコンとか充電器とか、ああいうのもすぐどっか行っちまうじゃん」 「お前が、どっかやっちまうんだろ」 「……」  どうしても親友には勝てない彼である。  それでも。  呼びかけて返事が来れば、どれだけ気が楽かと考えてしまうのだ。  近くにいるのかいないのか、それがわかるだけでも違う。  そして、物を失くしやすい人間というのは、大抵お目当ての近くにいるものだ。そこにあるのに、見つけられない。これ、定番。  だから、問いたくなる。意味のないこととわかっていても。  青年は、トホホと肩を落とした。 「俺のスマホ……どこにいるんですか?」
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