第75話 ルリオ

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第75話 ルリオ

「藤巻さん!!」 思わず大きな声を出してしまった。 藤巻さんはこちらに目を向け、目を大きく見開いた後、 「透子ちゃん!? どうしてここに!?」 と心底驚いた様子で声を上げた。 39532adf-b1a9-4249-9b37-46359de5474f 「あたし達は調べ物があってここまで来ました。 藤巻さんこそ、ここで何をしてるんですか!?」 あたしが問い詰めると 藤巻さんは気まずそうな顔をしたまま 「その子は漂くん…… ではないわね?」 と言った。 「僕は目黒大河…… いや、本当の事を言った方がいいんですかね?」 とマシロは藤巻さんに言った。 「その子は?  紫苑にそっくりだけど、紫苑じゃないんですか!?」 あたしは鉄柵を掴み、声を上げた。 藤巻さんはフーーッと小さくため息をついて 「どこまで知ってるの?」 とあたし達に聞いた。 「俺は未来からやって来た人間だ。 今、透子の時空間テレポートについていろいろ調べてる。 ぷりずむ苑とあんたには何か鍵があると思ってる」 マシロが言った。 藤巻さんは特に驚きもせず再び小さくため息をついて 「説明するには時間がかかるわ。どうぞ入って」 とあたしとマシロを教会の中に招き入れた。 中は4人がけのベンチが左右に5列ほど並んだ礼拝堂があり、 その奥は居住スペースになっているようだった。 藤巻さんとルリオ君は今ここで暮らしているらしい。 「どこから話しましょうかね?」 祭壇へ続く通路の途中で藤巻さんは立ち止まった。 「私はもともと総合科学理科研究所の職員でした。 そこではあらゆる研究がなされていたんだけれど、 その中で私は物質間のテレポートの研究をしていたの」 藤巻さんは静かに話し始めた。 「そこで出会った同じく研究員で外国人の主人と出会って結婚し、 男の子を一人授かったわ。 でも、夫はいざ家庭を持ってみると暴力を振るう人だった。 息子がまだ4歳の時に私たちは離婚したけれど、 その子は力ずくで夫の国に連れ去られて そのまま居場所がわからなくなってしまった……」 「それがルリオ君?」 あたしは聞いた。 「えぇ、そうよ。 それから私も研究所を辞めて、 ルリオがいなくなった心の穴を埋めるためにぷりずむ苑の職員になった。 寝食を忘れる程子供達のために働いたわ。 その甲斐あってか4年後に施設長に任命される事になったの」 藤巻さんはそこまで話すと、また小さくため息をついた。
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