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「俺は、お前が好きだった。すごく好きで、だから全然素直になれなくて。……本当は、今でも好きだ。大好きだ」
伝えるべき言葉を、今度は間違えない。
「だから、ぶん殴るなり呪うなり殺すなり、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。お前には、その権利がある」
暫く、沈黙が続いた。頭を下げたままの俺には、向こうの様子は一切見えない。でも暫くして足音がこちらに近づいてくるのがわかった。荒々っぽい、いかにも怒ってますというのが丸わかりの足音。そして。
「頭上げて」
言われるがまま顔を上げた直後、ばちーん!という景気の良い音と共にほっぺに灼熱がきた。目の前ばちばちと星が散る。結構な力だったので、思わずよろめいて後ろに下がってしまった。頭をくらくらさせながらようやく真正面から彼女の顔を見た俺は、はっとさせられることになる。
殴られた。絵里名は、幽霊なんかじゃない。
今確かに、目の前に――同じ学校の制服を着た、彼女の姿がある。
「私のことなんか、忘れてると思った。……だって、クラスが離れただけで、私の存在にも一か月間気づかなかったわけでしょ」
あの頃よりちょっとだけ痩せて、綺麗になった少女は。涙で目を潤ませて、あの時と同じように俺を見つめている。
「今の一発で、許してあげる。だから……今年からは、約束守りなさいよね」
「……お前、生きてたんだな」
「あんたがあんまりにもムカついたから、あんたの親には適当に死んだってことにしておいてもらっただけ。あの時はマジで、二度と顔も見たくないって思ったんだから」
「ごめん」
「だからもう、いいんだっつの」
そんなに恨みに思ってたくせに、それでもういいってことにしてくれるのか。そんなあっけらかんとしているところがまた、彼女らしいと言えば彼女らしい。
「……じゃ、また、メールしてくれんの。今度からは返事してくれんの」
どうにか俺がそれだけ絞り出すと、いつの間にか晴れてきた空をバックに、少女はボロボロのスマートフォンを取り出したのだった。
そこには、遠いあの日に彼女にあげた、ウサギのキーホルダーがぶら下がっている。
「むしろ、メールしないと許さないからね、このバカ」
ああ、彼女は青空ガール。
お日様の下でそうやって笑っているのが似合っている。できれば今後もそうであってほしいものだ。
これからは、俺の一番近くの場所で。
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