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カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めた。昨夜は悪い夢を見たと思いたかったけれど、目の前に転がっている青白くなった自分の身体と、その向こう側にちょこんと体育座りをしてこちらを見つめる小さな女の子が、俺の淡い願望を無残に打ち砕いた。
「おはよう、パパ」
「お、おう……おはよう」
俺は君のパパじゃないけどな、と心の中で付け加えた。まぁ、こんな小さい子に正論をぶつけてもしょうがない。
この子は昨夜壁から這い出てきて、俺の身体に飛びついてきた女の子と同一人物……なんだよな?
昨夜はもっと血色が悪くて髪もボサボサだったように見えたけれど、今目の前にいるのは、くっきりとした二重まぶたとぷっくりとしたほっぺが印象的な、かわいらしい女の子だ。
ただ間違いなく言えるのは、俺もこの子も死んでいて、俺は恐らく目の前にいるこの子に殺されたらしいってことだ。
女の子の身体は形こそ普通の人間と変わらないけれど半透明で、向こう側にある玄関の扉が透けて見えている。俺の身体も同様だ。
自分がこんなところでこんな形で死んでしまうとは思ってもみなくて、あまりにもあっけない人生の幕引きに拍子抜けしていまう。
しかし、死後の世界を信じていなかった俺としては、今の状況はほんの少し興味深い。俺がこの身体をいつまで保っていられるのかもわからないし、ひとまず、現状唯一意思疎通を図れる目の前の女の子と話してみることにした。
「君、お名前は?」
「ヒナコ。ママとおともだちにはヒナってよばれてたよ」
「そっか。ヒナちゃんはいつからこのお家にいたの?」
「うーん……ずーっとまえから!ママとふたりでいたの」
ママと二人ってことは、単身赴任か母子家庭だろうか。この手狭なワンルームに住んでいたとすると、母子家庭の親子だったのかな。
「今はママと一緒じゃないの?」
「うん。ママはね、てんごくにいったんだよ」
「そうだったんだ。じゃあそれからはずっと一人でここにいたの?」
ヒナちゃんはこくりと頷ずく。
こうして話してみると、ごく普通の女の子だ。こんな小さい子に「君が俺を殺したの?」なんて直球で聞くのはためらわれる。
言葉に詰まっていると、玄関のチャイムが鳴った。引越し業者がやってきたのだ。
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