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「前川さーん。入りますよー?」
合鍵を使ってドアを開け、入ってきたのは若い男と中年の男の二人組。
室内の様子を窺うようにそろりそろりと部屋の中へと進んでくる。玄関から廊下を挟んで正面にいる俺とヒナちゃんのことは、見えてないみたいだ。
「うわっ!? マネージャーちょっとこれ! 人が倒れてますよ!?」
先に入ってきた若い方の男が、俺の遺体を発見してパニック気味に叫ぶ。まぁ、普通ならそういう反応になるよな。俺のせいで変なトラウマにならなければいいのだけれど。
「お前、それ以上部屋に入るんじゃない。こっちへ戻ってこい。もし事件性があったらこの部屋は大事な証拠になる」
対して中年の男は落ち着いた声色で若い男に玄関へ戻るよう指示を出し、すぐさまスマホでどこかに電話を掛けだした。救急車を呼んでいるようだ。
「わざわざマネージャーが立ち合いに来られた理由がよくわかりました……。あの話、本当だったんですね」
電話を終えた中年の男に、若い男が話しかける。中年の男は眉尻を下げ、ため息をついた。
「お前はうちの支店に来てまだ日が浅かったからな。ちょっと荷が重いだろうと思ったんだ」
「いつからなんです?この部屋で引越し前夜に死人が出るようになったのは」
若い男の発言にギョッとして、二人の会話に聞き耳を立てる。
「もう十年近く前になるかな? 発端は母子家庭の母親と子供が殺害された事件なんだ。母親は水商売をしていて、客に逆恨みされて刺されたんだと。子供は確か、まだ五歳の女の子だったかな」
「痛ましいですね……もうこの部屋貸し出すのやめたほうがいいんじゃないですか? 今回が初めてじゃないんでしょう?」
「そうだなぁ。もうこれで三回目だ。原状回復の費用がかさんで貸すだけ損かもしれん。このアパートの所有者と相談だな」
二人の男が話している内容に、めまいがする。記憶の彼方に押しやっていた、あの女とのやり取りが鮮明に蘇ってくる。
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