雪鏡が咲くとき

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 迷信に惑わされるほど、頭は緩くなかったが、願いが叶うサボテンとは面白い。  わたしは、いわゆるアラサーと呼ばれる年齢で、寂しい人生を送っていた。  恋人のひとりもできたことがなく、仕事は派遣会社の派遣社員。  働いても僅かにしか得られない収入は、わたしの気力を奪う。  正社員として就職できないのは、わたしが悪いのか、それとも世間が悪いのか。  世間のせいにするつもりはない……そんな綺麗事は言う気はない。  わたしが社員として働けないのは、やはり世間のせいだろう。  就職ができなかったからではないが、友達らしい友達はいない。  学生時代の気の合う仲間もいない。  仲間と呼べる存在がいれば、もう少し違ったのか。  いや、アラサーになった今となれば、ひとりは気が楽でいい。  収入は少ないが、誰に何も言われることなく、自由気ままに過ごせるのは気に入っている。  休日は寝て過ごし、無料で遊べるスマホゲームをプレイして、また寝る。  現状に満足しているわけではないが、人生を変える努力もしていないので、わたしはこのままなのだろうと思っている。  買ってきたサボテンを、窓際に置いて、どうせ願いが叶うなら、何の苦労もせずに1億円でも手に入れてみたいと、そんなことをふと考えた。  この五百円で手に入れたサボテン──雪鏡が願いを叶えてくれるのなら、まずは正社員にでもなってみようか。
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