雪鏡が咲くとき

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 夜、夢を見た。  夢の中のわたしは、正社員になっていた。  派遣社員としてしか働いたことがないわたしが、きびきび部下に指示するわたし。  今まで一度も、そんなことはなかった。  何かを命令すれば、素直に頷く。  いつも立場が逆だった。  何でも指示された通りにする。  少ない時給でしか働いてないわたしは、会社の駒だった。  社員とは違う。  しかし、仕事の質は、高度なものを求められる。  それが、社員になれば、立場が逆になるのだ。  わたしが命令し、他の者が動く。  給料も倍になっていた。  夢だとわかっていても、高揚感に酔いしれる。  朝、良い気分で目が覚める、とサボテンの花が咲いていた。  白い花だった。  甘い香りが部屋に広がっている。  サボテンの花がこんなに香るなんて知らなかった。 「夢だったけれど、社員になるのは悪くないな」  花に呟いて出社した。  数日後、わたしは正社員になっていた。
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