0人が本棚に入れています
本棚に追加
また夢を見た。
昨日まで座っていた席に、知らない人間が座っている。
「課長、どうかしたんですか? 課長の席は、あちらですよ」
指された方向は、課長の座る席だった。
どうやら、わたしは夢の中で出世していたらしい。
起きてから数日後に、わたしは課長になるのだろうと、夢の中で思った。
無気力だったわたしがスピード出世するまで、時間はかかっていない。
夢の中で、わたしは仕事を指示するだけで良かった。
そして、目覚めて、数日後に、わたしは課長に出世した。
「はい」と返事して動く部下たちを眺めるのは、夢と同じだった。
特に出世をしたい願いはなかったが、出世するとこんなに気分が良くなるのか。
それからは、夢を見て出世すれば、数日後に現実になった。
課長から部長に出世して、恋人ができた。
雪鏡の甘い匂いが体にまとわりついて離れなくなった頃、夢を見なくても、願うだけで望みが叶っていった。
職を手にしたのなら、人生初の恋人が欲しいと、雪鏡に願った。
数日後、わたしはひとりの女性と出会った。
才色兼備とは、彼女のことをいうのだろう。
わたしにはもったいないくらいの人だった。
派遣社員だった頃の鬱々とした生活が嘘のようだった。
とても充実した毎日を失わないように、わたしは、小さなことも、大きなことも、全部雪鏡に願ってきた。
何でも叶えてくれる雪鏡は、わたしの生活になくてはならない存在だった。
最初のコメントを投稿しよう!