雪鏡が咲くとき

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 また夢を見た。  昨日まで座っていた席に、知らない人間が座っている。 「課長、どうかしたんですか? 課長の席は、あちらですよ」  指された方向は、課長の座る席だった。  どうやら、わたしは夢の中で出世していたらしい。  起きてから数日後に、わたしは課長になるのだろうと、夢の中で思った。  無気力だったわたしがスピード出世するまで、時間はかかっていない。  夢の中で、わたしは仕事を指示するだけで良かった。  そして、目覚めて、数日後に、わたしは課長に出世した。 「はい」と返事して動く部下たちを眺めるのは、夢と同じだった。  特に出世をしたい願いはなかったが、出世するとこんなに気分が良くなるのか。  それからは、夢を見て出世すれば、数日後に現実になった。  課長から部長に出世して、恋人ができた。  雪鏡の甘い匂いが体にまとわりついて離れなくなった頃、夢を見なくても、願うだけで望みが叶っていった。  職を手にしたのなら、人生初の恋人が欲しいと、雪鏡に願った。  数日後、わたしはひとりの女性と出会った。  才色兼備とは、彼女のことをいうのだろう。  わたしにはもったいないくらいの人だった。  派遣社員だった頃の鬱々とした生活が嘘のようだった。  とても充実した毎日を失わないように、わたしは、小さなことも、大きなことも、全部雪鏡に願ってきた。  何でも叶えてくれる雪鏡は、わたしの生活になくてはならない存在だった。
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