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あの日の残像
「これが終わったら、本当にここから旅立たなきゃいけなくなるのね。」
ぽつりと、それは恐らく深い意味もなくつぶやかれた言葉だった。隣に立っていた彼女の何気ない、何の意味もない一言。それが、引き金だった。そのまま風にさらわれて消えていくはずだったその一言は、私の中に引っかかって大きくなる。
「立ち止まらせてはくれないもの。」
あっという間に流されてしまって、気づいたらずっと遠くに行ってしまう。
「そしていつの日か振り返ってこう思うの。若かったなぁって。」
茶化すように言った彼女と見つめ合って、私たちはくすりと笑った。
「それでも幸せだったって、きっと思うよ。」ここで過ごしたこと、笑いあったこと、かけがえのない時間を何よりも大事なものをここで手にしてきたこと。
あの頃はまだ、気づいていなかったけど。
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