【ショート・ショート】ワタシノート

5/5
前へ
/5ページ
次へ
その後、篠田さんは事あるごとに私の元を訪れ、スマートフォンで撮影した私のイラストをTikTokに上げていった。 私は自分のアカウントを通して、篠田さんが撮影した自分のイラストを見てみたのだが、「現役JKが描くイラスト」とはどうやら世間一般の興味をひくようで、篠田さんの投稿には芸能人みたいな数の「いいね」がついていた。 その「いいね数」に自信を持った私は、本格的なイラストをSNSに投稿してみようと思い、お年玉で液晶タブレットを購入した。 そして、篠田さんの言葉通り、ストーリー性のあるイラストを描き、それをSNSに上げてみた。 ストーリーは、私が常日頃から見聞きしている「目の前のJK」のやり取りを面白おかしく描いた、たわいもないモノだ。 が、それは人々の琴線に響いたようで、私のイラストにはすぐに万単位の「いいね」がついた。 もし、あの時男子生徒にノートを落書きされ、私が授業をボイコットしていなければ、篠田さんは私がイラストを描いている事に気が付かなかったのではないか。 そして、もし篠田さんが私のイラストをTikTokに上げていなければ、私は今でも内に込もって、独りでノートに自分の妄想を描き殴っていただけだったのではないか。 高校時代、SNSに上げたイラストがバズった事がキッカケで様々な仕事が舞い込み、10年以上が経った今、私は希代のイラストレーターとしてその名を馳せている。 あの当時、篠田さんがもたらしてくれた出来事は、忘れたくても忘れる事が出来ない。 当時の出来事を思い返していた私は、睡眠不足を解消する為、ブラックコーヒーを一口飲むと、休憩をやめて有名ボカロPから依頼されたイラストに再び筆を入れた。 今現在、イラストレーターとして活躍する島原アイ32歳。 その誕生前夜の、甘酸っぱい出来事である。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加