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俺は深く息を吐いて、手を止めた。
パソコンに表示されている時計は、すでに真夜中が近いことを知らせている。
明日の、友人の誕生日を締め切りと定めた原稿の最終確認を、ようやく終えたところだ。
もうずっと、何年も友人の誕生日をまともに祝えていない。
だからせめて最後に、この物語を捧げたいと思った。
「これで良いだろう」
声に出して印刷マークを押す。
鈍い音を立てて、印刷機は動き始めた。
俺はそのそばへ行って、
「お前も、長い間頑張ったなあ」
そっと、労るように印刷機に触れる。伝わる振動。
一枚一枚、丁寧に。そいつは仕事を成し遂げた。
紙もインクも、もうほとんど残っていない。
俺は動かなくなった印刷機を優しく撫でてから、吐き出された紙の束を整える。
それからパソコンに戻り、書き上げたデータを消した。
全て。残らず。
一瞬画面にノイズが走ったかと思うと、パソコンは電源を落とした。
どうにか復旧しようとしたが、もう二度と、画面に光が戻ることはなかった。
こいつも寿命だったのだ。
俺は動かなくなった機械たちに感謝を述べて、それから部屋を見渡した。
作業机と印刷機があるだけの無機質な部屋には、何百もの物語が積み上がっている。
「行くか」
と呟くと、俺はそれらを外へ運び出す。
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