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「今どこにいるの?」真由美は尾瀬小屋のテラスからスマホで電話をかけている。
「東電小屋」と正晴はスマホで答えた。
「そう、ねえ、芳樹君もいないんだけど、同伴?」
「いや、俺、独りで出かけたんだ」
「何しに?」
「えーと水芭蕉観に」
「それから東電小屋に来たの」
「ああ」
「じゃあ、芳樹君は?」
「知らない。俺、先に出たから」
「じゃあ、行き先知らないわね」
「ああ」
「私、トイレから部屋に戻ったら二人ともいないから、あれっと思ったの。で、30分経っても戻らないから、どこ行ったんだろうと思ってロッジ中探し回ったんだけど、いないから、まず芳樹君に電話かけてみたら繋がらないの。で、どうしたのかと思って正君に電話したんだけど」
俺は後回しか、ちぇっと心の中で舌打ちして、「圏外か電源が切れてるんじゃないのか」
「そんな旨のガイダンスが流れたわ」
「じゃあ、そうだよ」
「そうかあ、何処ほっつき歩いてんだろう」
「見晴か龍宮の方じゃないかな。あっちの方は小屋がなくて電波受信できないから」
「そっか」三人は大学二年生で5月末にハイキング目的で尾瀬を訪れ、尾瀬小屋に宿泊しているのだ。「しかしまあ、何でまた私がトイレ行ってる間に態々出かけるのよ」
「気まぐれさ」
「可笑しな人たち」
可笑しいどころの騒ぎじゃないよと正晴は心の中で呟いた。
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