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園部の冷蔵庫は想像していた通り、材料は豊富にあるし、きれいに収納されていた。それを見て達也は思わず笑みが漏れる。几帳面なのは学生時代から変わっていない。
調理道具もコンロ周りに取り出しやすいように置いてあり、初めてキッチンに立った達也も困らないほど整っている。
「いやぁ、本当に園部らしいキッチン。好きだなぁ、こういう感じ」
「そうかな?」
「お前と別れた男は勿体無いことしたよなあ」
「……そんなこと言うの、たっちゃんくらいよ」
達也は手際よく調理をし、具沢山のオムレツとサラダ、味噌汁をテーブルに並べる。
「はぁ……相変わらず手際がいいんだから。でもパンなのに味噌汁?」
「朝の味噌汁は大事なんだぞ。特に夏場は塩分補給にもなるし……」
「あーお腹すいちゃった! 早く食べようよ」
園部は達也の背中を押すと、テーブルの前に座らせる。そして手を合わせて食べ始めると、幸せそうな顔を浮かべる。
「美味しい! やっぱりたっちゃんのご飯は絶品だわ」
「そう言われるのも久しぶりだな。最近は料理を作っても『クオリティが高すぎる』って引かれることばっかりだったからさ」
「たっちゃんの料理男子っぷりは慣れたものよ。むしろ久しぶりに食べられて嬉しいな」
彼女の笑顔を見ながら達也も久しぶりに満足した。
「園部が作ったお菓子はないの? そっちも食べたい」
「うーん……冷凍庫にマドレーヌがあるけど、解凍する?」
「おっ、いいね」
起きた時の戸惑いも、あっという間に消えていることに気付く。
「そういえば俺達、昨日しちゃってるんだよなぁ。なんか不快な気分とかしてない?」
「朝食の時にそういう話題はやめてよ。でも別に記憶ないしね、相手がたっちゃんだし」
「俺だと何なの?」
「うーん……なんというか、気を許してる相手だからかな。まぁ嫌じゃないってことよ。たっちゃんはどうなの?」
「俺? いや、久しぶりに発散させていただいて大感謝です。記憶はなくても体は正直だから」
「……それは良かったです」
ん? なんだ俺。なんかおかしいぞ。頬を染める園部にキュンとする。
食べる時に髪を耳にかける仕草が色っぽくて、ちょっとドキドキした。
昨日は一年振りくらいの再会だった。でも連絡は取り合っていたし、そこまで懐かしいという感じではなかった。
結婚式は隣同士で普通におしゃべりして、二次会の始まりまではいつも通りだった。
はて、その後一体何があったんだろう。
「なぁ園部、今日って暇? せっかくだし、一緒に出かけないか?」
「まぁ暇だからいいけど……」
「じゃあ決まりだな」
「行きたいところある?」
「そっちが誘ったのに聞くの? あっ、もしかして柄にもなく私を励まそうとしてる?」
「そりゃあ大事な友達が元気ないなら、励ましたいって思うのは当然だろ」
「たっちゃん……めちゃくちゃ良い奴じゃない……」
園部が嬉しそうに微笑むから、なんだか不思議と俺も笑顔になったんだ。
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