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6
さて、どうしたものか。千葉の言うように、酔っていたし……と笑い話にしてもいい。だけどそうするには少し勿体無い気もしていた。
園部と会うのは久しぶりだったが、連絡は取り合っていたし、気心の知れた仲だ。
何より園部といると、すごく落ち着くんだ。俺の作るものを美味しいと言って食べてくれるし、逆に俺は園部の作るお菓子が気に入っている。
しかも大人になって、更にキレイになった彼女にドキドキしたのも事実。じゃなかったら昨日の夜に関係を持つなんて出来なかったはずだ。
ただ、園部がどう思っているかはわからない。俺を友達以上に見ることは出来ないかもしれない。
達也は園部に視線を移す。
「……お前がどう思っているかはわからないけどさ、俺はこれを現実にしてもいいかなって思ってるよ」
「えっ……」
「園部といると楽しいし、俺の作った料理を美味しそうに食べてくれると嬉しいし、料理のこだわりを持ち過ぎる俺を園部は全部受け入れてくれるだろ? それって心地良いんだ。なんか俺の居場所みたいな感じでさ」
園部の目は困ったように泳いでる。その様子を見て、これは無理だと悟る。まぁそれなら笑い話にすればいいだけのこと。
「困らせてごめんな。園部が無理なら今まで通り、友達でいよう」
「ち、違う!」
引こうとした達也の手を園部はグッと握る。下を向いたままだから、表情を見ることは出来ない。
「あのね……今日一日たっちゃんといて……すごく楽しかったの。電話の時もだけど、たっちゃんはいつも私が欲しい言葉をくれる……。だから今朝のこと、もしかしたら私から誘ったのかもしれないって、本当はずっとドキドキしてた。私は……たっちゃんとなら……いいって思ってるんだよ……」
園部は顔を上げると、真っ赤な顔で達也をじっと見つめる。その瞳に囚われ、達也は身動きが取れなくなる。
今日一日、所々で抑え込んできた欲求に火がついた。
「それって、俺と結婚してもいいってこと?」
「たっちゃんは私と結婚してもいいって思うの?」
なんだよ、園部ってこんなにかわいかったっけ。上目遣いで見上げてくる園部にキスをして、そのまま床に押し倒す。
「当たり前だろ。もうお前の隣は俺のものだから、覚悟しとけよ」
達也は園部の体を抱き上げると、ベッドに連れていく。
「た、たっちゃん⁈ あ、あのっ、私たち芋掘りした後の汗まみれだよ⁈」
「安心しろ。気にしない」
「私が気にするって!」
達也は園部をじっと見下ろしながら、急に頷く。
「明日、お前の実家に挨拶に行こう。ついでにうちにも行くか」
「えっ⁈ いきなり⁈」
「それから区役所に婚姻届を出しに行こう」
「たっちゃん! 展開早すぎる!」
「……嫌なのか?」
「……嫌じゃないけど……」
「よし、決定」
達也に唇を塞がれ、園部は何もいえなくなってしまう。
「もうっ……強引なんだから……」
何度も重なる唇に、呼吸も乱れ始める。そんな彼女を見て、達也はこの上ない満足感を覚える。
「好きだよ……美織……」
「……反則よ、バカ……」
名前呼ぶまでに十八年もかかったなんて……どれだけ焦らすの、この人は……。そう思いながら、美織の心も体も幸せに包まれる。
ようやく気持ちが通ったのが結婚前夜だなんて、私達らしすぎる。
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