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シーケンスは終盤に入った。
コクピットとは名ばかりの、何かしらの事故が有れば切り離しが可能なカプセルユニットの中で、俺はコントロールルームからの通信を聞く。
『MB機関、磁力誘導開始』
『回転数上昇――五、六、――十。安定しています』
『仰角ゼロ、軸方向誘導開始』
『一度……二度……三度。誤差計測値以下』
『重力傾斜を観測、絶縁破壊まであとカウントニ〇』
『ロデリック、センサー類に異常はないか』
「異常なし」
計器類に目を走らせ、俺は予定通りに答える。
『異常なし、了解』
『到達予定は天王星軌道三八〇五、距離約ニ七億キロメートル』
『出現ポイントに障害物なし、エリアグリーン』
『カウント一〇』
『ロデリック』
アイリスの声だ。
『天王星軌道では観測船ステラ七号が君の出現を待っている。18AUの向こうで、約束を果たしてくれ』
「ああ」
『……ニ、一、ホール確認!』
モニターに、黒い闇に押しのけられた光の輪が映ったかと思うと、ぐっと体がシートに押し付けられた。前方に落ちていく感覚。
『ハイパースペ……とつ……』
ぶつり、と通信が切れる。
僅か二秒、奇妙な曳航感の後、もう一度リングを潜るとモニターには再び星の海が映った。
だがおかしい。星はモニターを流れており、つまり船が回転運動を起こしている。
ほんの一瞬、チラリと輪をたたえた天王星が映る。ジャンプ自体はしたらしい。
『船体を確認、回転している!』
ステラ七号だろうか、通信が入る。
いくつかの計器が警告を発している。俺は素早くそれらをまとめて報告する。
「ステラ七号、MBの回転軸が戻っていない、六度だ!」
『磁力ブレーキ作動、機関の緊急停止!』
「だめだ、効果がない」
『重力傾斜を確認、まずい、また絶縁ホールが開くぞ!』
『未計算だ! どことも知れぬ空間に飛ばされる!』
悲鳴のような声が響く。俺は事前に知らされた緊急停止系スイッチを全て操作する。だが振り回される感覚は変わらない。
『絶縁ホール確認!』
その声と同時に俺は緊急離脱ボタンを叩いた。
拘束ベルトが素早く俺の体を固定し、加速感が俺を包み込む。コクピット――緊急脱出カプセルはシャッターで覆われ、回転する船体からどことも分からない方向に向かって打ち出された。
生命維持のための仮死ガスが流れ出す。
長い眠りに落ちる直前、俺はフラグの話を思い出していた。案外本当かもしれないな――そして意識を失った。
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