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髪は当時の流行りの耳隠しに結っています。まだまだ、断髪には抵抗がある時代です。流行の先端であったモダンガールのように短髪に見えながら、長い豊かな髪をそのままに結い上げた髪型が、伝統と前衛の間をとったようで、フミカは気に入っていたのです。
「フミカの髪はいい匂いだな」
「壮介さんが好きな椿油の香りね」
「フミカは耳隠しが一番似合うと思う、可愛いなぁ」
「うふ、壮介さんが結ってくれるからこの髪型でいられるの。自分でするのは大変だわ」
「髪結いだからね、俺は。ほら、こうやってコテで髪をうねらせるだろう。おでこから両脇に流して両耳を覆って……。毛先を後頭部にまとめるとできあがり。フミカのような可愛い娘に似合う髪型だ。昨日、牛みたいなおばさんがやってくれって店に来たんだけど、笑いを堪えるのが大変だったなぁ」
「意地悪言ってはいけないわ。お客さんでしょ?」
「分がってるって」
壮介はフミカのつむじに口づけを落としました。リンゴのように顔を赤くしたフミカは、その先の壮介の望む展開を受け入れる恥ずかしさに身を固くするのです。
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