フミカが選んだ男

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 高山と名乗った髪結いは、縁側で手際よく道具を広げました。失礼しますと言って、フミカの襟もとに手ぬぐいを手早く巻くと、豊かなフミカの髪をひと房手に取り、櫛を取り出して梳き始めました。ひと房終わると、また、ひと房。椿油を少量手にとり、さっと髪全体にならしていきました。無造作に纏めていただけのフミカの髪が瞬く間に艶めいて、匂い立ってくるのがわかります。  コテを取り出した高山は、鏡越しににっこりとフミカに笑いかけました。フミカの大きな瞳が僅かに潤んでいました。  「ほら、こうしてコテでうねりを出します」  そう言いながら、小さくジューっと音を立てるコテを器用に操り、髪全体に、綺麗に山の稜線のようなうねりをつけていきました。  「額からこうして両側に流すんです。そして耳を覆って後ろで纏めるっと」  最後に纏めた髪にキュッと櫛を挿して固定し、鏡の中のフミカの表情を伺う高山は、等しく壮介と同じ得意げな少年のような顔つきをしていました。  フミカの大きな瞳から、ポロっと大粒の涙が零れました。  「お嬢さん! どうしました? 僕なにか気に障ることでもしましたか?」
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