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吃驚した高山は大声をあげました。
「いえ、何でもありませんの。ただ、耳隠しにしたのが久しぶりで懐かしくて……」
フミカの脳裏に蘇った壮介の髪を結ってくれた手つきと、上手くできたという得意げな表情がフミカの涙腺を刺激したのでした。
「ごめんなさい。お気になさらないで」
頬の涙を拭いながら笑顔をつくるフミカは少女のように可愛らしく、高山の心臓を鷲掴みにしてしまいました。濡れた睫毛が蠱惑的でした。
「あの、お嬢さん、お名前を聞いてもいいですか?」
「フミカですわ」
「フミカさん……綺麗な貴女にぴったりの名前だ……」
この時から遡ること3か月。あやかしは、仲間の妖怪に人間の女が気に入ったから人型になって話がしたいと言いました。話し相手はいつでも空の妖怪・空亡きです。
「なあ、空亡き、知恵を貸せ。どうやったら怪しまれないで近づける?」
「女は、恋人がいたんだろ? じゃあ、その男に似せればいい」
「どんな男かわからんよ」
「じゃあ、覚(さとり)に頼んでやる。彼奴がその人間の記憶を読んでくれりゃ化けられるさ」
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