フミカが選んだ男

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 人の心を読むという妖怪の覚によれば、その男は髪結いだったのだそう。そして、フミカの髪を結ってやったことがきっかけで恋仲になったのだとか。  あやかしは、いつも寂しそうなフミカに、想い人がいつも結ってくれていた耳隠しを結ってやろうと思い立ちました。そして、髪結いの家に透明なまま入り込み、髪結いの手元をみて一生懸命覚えて練習したのです。  さして器用でもないのに頑張って練習したので、フミカの髪を上手く結ってやれた時は、少年のように得意満面だったのでした。その得意顔が存外可愛くて、フミカは壮介も得意顔をしていたことを思い出して思わず涙したのです。  しかし、髪を結えるようになったのはいいけれど、あやかしは雨で人型は作れても、実体はないから人に触れません。どうしたらいいだろうかと思いあぐねて、また空亡きに聞きました。  「なあ、髪に触るにはどうしたらいい?」  「人間になれば出来るだろうがな……」  「どうやって?」  「知らんのか? 閻魔様に言って永遠の命を返せば、人になれるんだぞ」  「知らなかった。知っていたらとっくに人になったのに」
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