フミカが選んだ男

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 別の日に、あやかしがまた通りがかると、女はいませんでした。  気になって何度も、その家を見に来ました。そうするとひとつの規則性に気が付きました。女は天気の日は出かけていて、雨の日だけ、縁側で美しい声で歌っているのです。  それからというもの、あやかしは雨の日になると、するりとその家の生垣を乗り越えて、庭に入り込み、女の歌を鑑賞しに訪れるようになりました。  そのうち、あやかしは、この女がフミカという名だと知りました。女は両親が亡くなった後、1人でこの大きな屋敷に住んでいるのです。  雨の日に外に出かけようとしないフミカは、縁側で歌ったり、まるで、誰かが隣にいるように独り言を言います。  お母さまが昔よく聞かせてくれたわ、と独り言を言い出したフミカの言葉をじっと聞いている見えない影があるとも知らず。  ―― フミカって名前はね、お父様がつけたのよ。ハイカラかしら?  フミというのはお父様の芳文のフミ、カは、お母様のカヨからとったそうなの。   お母様とお父様の愛の結晶だからって。夢想家でらしたのよ、私のお父様は。
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