フミカが選んだ男

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 お父様は生まれたての私を抱いて3日3晩離さなかったって、お母さま、何度も嬉しそうにお話しなさったの。    お母さまのように美しくて人を愛することに長けた子になるよって、おっしゃったんですって。お母さまは、お父様のような優しい子に育って欲しいと願っていたの……。  あやかしは、フミカの独り語りに聞き入っていました。綺麗な名前だなと思いました。この綺麗な女によく似合っている名前だな、歌だな。可愛いな、綺麗だな。滅多に人に関心を持たないあやかしが、フミカの何に惹かれたのでしょうか。  フミカは縁側が好きです。青葉雨に庭の木の葉が緑を輝かせていた夏香る日も、美しい声で朗読をしていました。母が好きだった与謝野晶子の『乱れ髪』は、何度も読み返してボロボロになっています。  男女七歳にて席を同じくせずという風潮の明治の頃は、世の少女たちは、恋焦がれる人を人知れず想って寝込むことさえあったのです。そんな儒教の名残りが強い時世に、恋心を堂々と謳いあげた与謝野晶子は、なんと大胆な女性だったことでしょうか。恋に恋する女性たちの教祖となったのは言うまでもないことです。
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