フミカが選んだ男

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 彼女に憧れ、自由に生きようとする女性もちらほら出てきました。そんな女性のうちの1人がフミカの母でした。    母には愛した人がいたのです。その人には親が決めた許嫁がおり、母と結婚することは許されませんでした。でも、母は初恋を捨てませんでした。母の愛した人は、母に家を買い与え、出来る限りの愛情を注いだのです。それは母にも、後に生まれた娘であるフミカにも。  母が亡くなって、フミカは一人暮らしをしています。  小さい頃は幸せでした。両親の愛を両腕いっぱいに抱えて生きていました。父が特にフミカを愛してくれたからです。  江戸の頃には武家でしか祝われていなかった七五三も、フミカが尋常小学校にあがる頃には、庶民の間にもお祝いが流行しました。呉服屋が社参りをするための可愛い着物を売り出すようになったからです。  流行に敏感な父はフミカの7歳のお祝いに着物を仕立てて、お宮参りに連れて行ってくれました。着飾るフミカを抱き上げて相好を崩して父が言いました。 「愛する娘よ、初恋の人に嫁ぐその日まで、君は僕の大事な人だよ」 「フミカ、初恋の人と深く愛し合って幸せになってね」と、母も願ったのです。
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