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青山秀彦(医者)
彼はこの物語において犯人でも被害者でもなく、ましてや探偵でもない。
しかし、彼はただのモブキャラではない。
殺人が絡むミステリーの登場人物の中には必要な役割がある。
医者だ。
死体が発見された時に死因や死亡推定時刻を知らせる役割を担う。
彼はミステリーオタクが高じて医学部に入学し、法医学を専攻している変わり者だ。
この物語においては、状況説明と登場人物の紹介をしてもらう。
「まさか、卒業登山で吹雪に巻き込まれるなんて。携帯も通じないし、ツイてないね」
桃井美貴が、ソファーに寝そべり、派手にデコレーションされたスマホをイジりながら投げやりに言う。
サークルメンバーだけの登山だというのに、メイクをばっちりキメているのは、いつのも彼女だから驚かない。
「部長さんよー。雪は降らねえんじゃなかったのか?」
暖炉の前を陣取り、ロッキングチェアを揺らしながら、でかい態度で文句を垂れているのは赤間武蔵だ。
態度もでかいが図体もでかい。
「今年は例年より雪が降り始めるのが早かったようだな。食料は一週間分以上はストックがあるから心配いらない」
銀縁眼鏡を中指で押し上げながら、落ち着き払った態度で対応するのは、登山サークル部長の黒崎優一だ。
卒業の思い出作りの登山を計画し、取り仕切ってきたのも部長の彼だ。
「みなさん、よかったらコーヒー淹れましたので、一息ついてください」
新入生の御影葵が、みんなにコーヒーを配っている。
小柄でおとなしそうな印象だ。大きな瞳と小ぶりな口が小動物を思わせる。
「あ、あの。お風呂の準備も出来ましたので冷えた体を温めてください」
腰が低く、おどおどした小心者という感じのこいつは新入生の紺野圭太だ。
どうやらこいつは、御影を追いかけてこのサークルに入ったようだ。
「吹雪の山荘に閉じ込められた6人なんて。こんな殺人が起こりそうな状況、滅多にないぞ」
この状況を面白がっているのはミステリーオタクの俺くらいだろう。
「それじゃ、女子から順番に風呂にするか」
黒崎が皆に言うと、
「じゃ、お言葉に甘えて一番風呂いただくわねー」
片手を上げ、さっさと脱衣所に向かう桃井。
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