青山秀彦(医者)

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

青山秀彦(医者)

彼はこの物語において犯人でも被害者でもなく、ましてや探偵でもない。 しかし、彼はただのモブキャラではない。 殺人が絡むミステリーの登場人物の中には必要な役割がある。 医者だ。 死体が発見された時に死因や死亡推定時刻を知らせる役割を担う。 彼はミステリーオタクが高じて医学部に入学し、法医学を専攻している変わり者だ。 この物語においては、状況説明と登場人物の紹介をしてもらう。 「まさか、卒業登山で吹雪に巻き込まれるなんて。携帯も通じないし、ツイてないね」 桃井美貴(ももいみき)が、ソファーに寝そべり、派手にデコレーションされたスマホをイジりながら投げやりに言う。 サークルメンバーだけの登山だというのに、メイクをばっちりキメているのは、いつのも彼女だから驚かない。 「部長さんよー。雪は降らねえんじゃなかったのか?」 暖炉の前を陣取り、ロッキングチェアを揺らしながら、でかい態度で文句を垂れているのは赤間武蔵(あかまむさし)だ。 態度もでかいが図体もでかい。 「今年は例年より雪が降り始めるのが早かったようだな。食料は一週間分以上はストックがあるから心配いらない」 銀縁眼鏡を中指で押し上げながら、落ち着き払った態度で対応するのは、登山サークル部長の黒崎優一(くろさきゆういち)だ。 卒業の思い出作りの登山を計画し、取り仕切ってきたのも部長の彼だ。 「みなさん、よかったらコーヒー淹れましたので、一息ついてください」 新入生の御影葵(みかげあおい)が、みんなにコーヒーを配っている。 小柄でおとなしそうな印象だ。大きな瞳と小ぶりな口が小動物を思わせる。 「あ、あの。お風呂の準備も出来ましたので冷えた体を温めてください」 腰が低く、おどおどした小心者という感じのこいつは新入生の紺野圭太(こんのけいた)だ。 どうやらこいつは、御影を追いかけてこのサークルに入ったようだ。 「吹雪の山荘に閉じ込められた6人なんて。こんな殺人が起こりそうな状況、滅多にないぞ」 この状況を面白がっているのはミステリーオタクの俺くらいだろう。 「それじゃ、女子から順番に風呂にするか」 黒崎が皆に言うと、 「じゃ、お言葉に甘えて一番風呂いただくわねー」 片手を上げ、さっさと脱衣所に向かう桃井。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!