昇進前夜

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「私、会社辞める」 「うあ?」  夫は、あきれているというか、ちょっと面白がっているような顔になった。ヒステリックに涙を流す私の顔が凄かったのかもしれない。 「同期の女性でチームマネージャーになってる人なんて、いくらでもいるだろ。もっと上のシニアマネージャーやマネジメントパートナーになってる人だっているのに、何を今さら騒いでるんだよ」 「だって…」  涙はとめどなく溢れ出ていた。 「辞めたきゃ辞めればいいよ。でも…」  夫は意地悪そうな目で、私の顔を覗き込んだ。 「何だかんだ言って辞めないだろうね」 「そ、そんなことない」 「嘘つけ。じゃあ、さっさと辞めてみろよ」  漫画やドラマの主人公でもないのに、会社や会社にいるみんなのために頑張るなんて、どうして他の人達はそれができるんだろう。  慣れた仕事を、できるくらいの量だけやって、のんびりと働くことが許されないのはなぜなんだろう。 「絶対辞める…辞めるんだから…」 「へいへい」  私の咆哮と、夫のいやらしいニヤケ笑いは、明け方まで続いた。  夫は優しいのかもしれない。眠いだろうに、泣きわめく私に明け方まで付き合ってくれたのだから。 (完)
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