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「主人公は大変だね」
夫が言ったので、私は頷いた。
「本当に大変だよね」
テレビがコマーシャルに切り替わった。私は抑揚のない声で、夫に重い告白をした。
「私、次の異動でチームマネージャーに昇進するって」
「あ、そう。おめでとう」
夫は当然のことのように、その言葉を言った。
私と夫は同じ会社に勤めている。夫は私より先に昇進して、もう何年もチームマネージャーの経験がある。
配属先は別だ。うちの会社では、配属先が違えば、仕事上での接点はほとんどない。
でも、当たり前だが人事制度や風土は同じだ。私達夫婦は、同じ土壌で働く者同士である。
私の胸の中には、理不尽な怒りがこみ上げていた。
「何でそんなこと言うの?全然おめでたくなんかないっ」
発作的にポロポロと涙が流れ出した。
「……年を離して、もう一人産んどけば良かった…」
私達には、今年で二十歳になる子供が一人いる。今は友達と泊りでどこかに行っているが。
うちの会社は、「正当な理由」というものがあれば、昇進をとめることができる。
もう一人、小中学生あるいはギリギリで高校生の子供がいたら、子育てに専念したいという理由が成り立つのに…。
「私、これ以上うまくなんかできない…今が精一杯のパフォーマンスなのっ」
「初めはみんなそう思うよ」
私は夫を睨んだ。気楽な慰めが気に障ったのだ。
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