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姉、来襲。
結婚式前夜、突然、花嫁の姉が部屋に飛び込んできた。
「ちょっ、お姉ちゃんどうしたの! 陽菜人さんは!?」
「最上階のレストランに置いてきた。なんかメンドクサクなっちゃって」
式場のあるホテルの一室で一人、明日の準備を繰り返し、入念に、チェックしていた私は嫌な予感に顔を歪める。
「メンド……って、明日結婚式なのに、旦那さん置いてきたってこと!?」
「まだ婚姻届け出してないから、旦那じゃないけど」
「そうじゃないでしょ。明日の式の後に役所行って出すんでしょ? 出したらもう夫婦なんだよ。実質旦那さんも同じじゃない!」
「だから今はまだ、ただの、カ・レ・シ」
チチチ、と指先を左右に振ってから、ごろんと私のベッドの上に寝転がって伸びをする。肩までの、明るい栗色の髪が広がる。
双子の姉、英里佳のお気楽な、というかいい加減でテキトーな性格が、ここに来てトンデモ無いことを言い出すなんて。ちょっと、もぅ、私、信じられないんですけれど、どういうこと!?
「いいじゃん、佳央は一人でヒマしてたでしょう?」
「ヒマじゃないよ。持ち物チェックとか、道具確認とか、式次第や手順を頭に入れたり……とにかく失礼の無いように、お姉ちゃんの大事な結婚式なんだから」
「うぅ~ん、やっぱり我が妹は頼りになるぅ」
「じゃないでしょぉお! それより面倒くさいって一体何があったの?」
御年二十七歳。職業、アパレル販売員。
派手派手しい恰好は好まないけれど、ポイントを押さえたメイクはいつもバッチリ決まっていて、今も、とっても綺麗。そんな姉と顔の造りは同じでも、私とは性格も何もかも正反対。
私は、大切な日の前夜に、大切な人を放り投げて来るなんてできないんですけど!
「まさか前夜にして喧嘩!?」
さすがに無いでしょ。明日は結婚式なんだよ。やっとここで漕ぎつけたんだよ。
奇跡的な出会いから一年。二人のデートに付き添って、あれやこれや世話してきた私の苦労は一体どうすればいいの? ワガママなお姉ちゃんと結婚してくれる人なんて、今後百年は現れないでしょうに!
なのに英里佳はちらりとこちらを見て、笑っている。
いやいやいや、この流れってってすっごい、嫌な予感がするんだけれど。お姉ちゃんが何かヤラカシタなら、今すぐさんに陽菜人さんの所に戻って謝らないと。
「喧嘩なんてしないよぉ。ん~、でもなんか考えちゃったんだよねぇ」
まさかマリッジブルー!?
「私って家庭に収まるタイプじゃないし。仕事楽しいし」
「何を今さら。全部、陽菜人さんと相談して決めたんでしょう?」
優しくて包容力があって、結婚後の仕事だって応援してる。派手なこともなくて「カピバラみたい」っいうけどね、そこが和むし落ち着くじゃない。
英里佳もそう言ってたじゃない!
「私、結婚、やめよっかな」
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