お姉ちゃんのバカァ!

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お姉ちゃんのバカァ!

「えっ?」 「私が、佳央が、陽菜人さんと結婚する! 私が陽菜人さんを幸せにする。英里佳にはもったいない!!」 「佳央、それ、本気?」  エスカレーターが最上階に到着する。  レストランは目の前。  入り口近くや店内のお客さん、ウェイターやウェイトレスまでもが驚いた顔を向けている。けど、涙目になりながら叫ぶ私の言葉は止まらない。 「本気だよ!」 「ヒナくんや列席者に申し訳ないからとか、責任感だけで言ってたりしない?」 「今更、英里佳がそれを言うの?」 「好きでもない相手となんて、ムリだよ」 「少なくとも、英里佳よりは本気だから。いや、世界中の誰よりも本気だし!」 「ヒナくんのこと、好きだってこと?」 「そうだよ! 初めて会った時から好きだったんだから!!」  私の声に、軽くあごを上げ、目を細めて腕を組む。勝ち誇ったような不敵な笑みで、英里佳は唇の端を上げた。  その後ろに立つのは、レストランから出てきた陽菜人さん。 「今の言葉、一生忘れないから」  そう言って、英里佳は一歩横に下がった。  真っ直ぐ歩いて来る陽菜人さんは、少し困ったような顔で私の目の前で止まる。手にしているのは、小さな花束。  私は状況が理解できないまま、陽菜人さんを見上げる。 「その……佳央さんの気持ち、どうしてもうまく、聞けなくて。けど、僕の気持ちはずっと前から決まっていて……」 「は、はい?」 「佳央さん、僕と……け、結婚してくださいっっ!」  な……なんですとぉぉおおおおおおお!!!  息が……ちょ、できないっ。  ちらりと横を見ると、お姉ちゃんはニヤニヤ笑っている。もしかしてこれ、芝居打ったとかいうヤツ!?  頭を下げた陽菜人さんがチラリと私を見上げる。 「ダメ……かな?」 「あ、いえ……」 「佳央さんと出会って、今までいろいろと準備する中でしっかりした人だなって……この人と一緒に家庭を築きたいと思った。昨日今日、決めたわけじゃない。だから――」 「わ! 私が、陽菜人さんを幸せにします!」  がしっ! と手と花束を握り、私は言った。  悔しいけど、もう離せない。  お姉ちゃんの気が変る前に、受けちゃう。決めちゃう。絶対に後悔なんかしてやるものか。 「よっしゃぁあ!!」  目の前で、ガッツポーズを決めるお姉ちゃん。  通りすがりやレストランで見ていたお客さんやら何やら、歓声と拍手が起きて、もぅ、めまいがしそう。 「良かった良かった。これで明日の式は、滞りなくあげられるわね」 「ちょっと待って、そうはいかないでしょ! ドレスとか式次第とか! 列席者にだって説明を……」 「ドレスはちゃんと試着済みでしょう? そして、こちらが訂正版の式次第ですっ!」  手にしていたハンドバックから、ぴらりと二つ折りのカードを取り出す。その席順の、高砂(たかさご)の位置には私と陽菜人さんの名前が! 「どういうこと!?」 「こういうこと。お父さんもお母さんも、ヒナくんのお義父さんやお義母さんに、ホテルや列席者の方々にも説明済みなのでご安心を」  説明済み? 知らなかったのは私だけってこと? 「いやぁあもう、いい人見つけたとか言ったら、なんか色々誤解してくれるし。佳央にホントの気持ち聞いても誤魔化すし。結婚式前夜になっても話が進まないとか、焦ったわぁ」 「すみません……英里佳さん」 「そうそう。ヒナくんもこれに懲りて、少しは強引にいってよね!」  お姉ちゃんが陽菜人さんの肩をバシバシと叩く。  あぁぁ……もしかして、ドレス選びから何から、全部私の意見を取り入れて手続きしてたのはこういう理由だったりしていたわけ? 「もぅ、信じられない……」 「卑屈になって遠慮して、素直にならない佳央が悪いんだからね。ここまでして本音言わなかったらもう、失踪でもしてやろうかと思ったわよ。お姉さまの偉大さを実感するといい」  お姉ちゃんには何度か「佳央も好きなんじゃない?」ってきかれたけど、まさかホントに夢みたいなこと、想像もしてなかったんだから。  今だって気恥ずかしくて、素直に「ありがとう」が言えない。 「お姉ちゃんのバカァ!」 「えぇぇぇえ!?」  一生忘れられない、忘れてもらえない、前夜に喧嘩と花束を。
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