炎々と燃え盛る為には何に火を灯すべきか

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 剣闘士()は、いつもの通り通路の(はし)に置かれている水桶(みずおけ)から手を(しゃく)にして一口飲んだ。  続けて顔を洗い気持ちを(しず)めると共に気合(きあい)を入れると、ゆっくりと仄暗(ほのぐら)い通路を進み行く。  光溢(ひかりこぼ)れた先に出ると、熱狂的(ねっきょうてき)大歓声(だいかんせい)が闘技場に(とどろ)き、全体を震わせた。  闘技場の中央まで歩き、対戦相手を待っていると―― 「此度(こたび)の相手は()である!」  観客席で一際豪華(ひときわごうか)主賓席(しゅひんせき)から甲高(かんだか)く言い放たれた。  声の主は、この国の王・プロレウス二世。  (プロレウス)は衛兵に囲まれながら主賓席から場内に降り立ち、男の前まで歩み寄ってきた。  あまりにも想像だにしない状況に、男の思考は停止してしまう。  やがて、国の頂点にいる王と最底辺の奴隷の男が目前(もくぜん)対峙(たいじ)する。  同じ人間のはずだが、明確な違い‥‥差がある。 「そう、緊張するでない。この闘技場では身分など関係無い。男と男。戦士と戦士が名誉と誇り、そして命を()して、堂々と一対一で戦い合おうではないか!」  衛兵の一人が持っていた剣を男の前の地に突き刺した。 「丸腰の相手をなぶるほど、余は軟弱(なんじゃく)ではない。さあ取るが良い」 「‥‥一つ()きたい。王である貴様(きさま)を殺したとしても、オレを自由にしてくれるのだろうな?」  無礼(ぶれい)な口ぶりに衛兵が(にら)みつけてくるが、王は片手を挙げて下がらせる。 「(しか)りである。それがこの戦いの褒美(ほうび)だろう。ああ、もし王の余を殺したとして、それが(つみ)(ばつ)を受けるとでも? 無用(むよう)憂慮(ゆうりょ)だ。さっきも申した通りだ、ここでは身分など関係無いと、ただの剣闘士との戦いだ」 「それを聞いて安心したよ!」  王殺しの悪名があれば傭兵としての株が上がるだろう。  また、王亡き後の国の行く末など知ったことではない。  見たところ王は一般的な成人男性の体格であり、上等な絹の服の開いた箇所から見える素肌は、とうてい鍛えられていない柔肌。  防具などを身に着けず、手にしているのは宝石や金で装飾されている小剣(レイピア)のみ。  舐めているのか、それとも超絶な剣技(けんぎ)を取得しているのか考えが巡ったが、 (王がどのような実力があるにしても、あんな小枝ような小剣(レイピア)でオレの剣を防ぎようあるまい)  これまでの経験と勘で、一振(ひとふ)りで決着と己の勝利を確信した。
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