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正月前夜
カウントダウンは一緒にしようね、って言ったのに、電話越しに聞く彼氏の声は眠そうだ。
「もう、お蕎麦食べ終わった?」
『……ああ、うん』
「居眠りしてたら伸びちゃうよ?」
『寝て……ない』
日付が変わるまで……年が明けるまであと十分。彼、起きてられるかな?
「来年はさ、一緒に過ごせたら良いね」
『……そうだな』
年末に飛び込んで来た出張で、彼は遠いところに居る。ちょっとした遠距離恋愛してるみたい。たった、二週間程度離れるだけなのに、ふふ。
「来年は、ちゃんと横で起こしてあげるから」
『だから、寝てない……ふわぁ……』
大きな欠伸。
疲れているんだ、きっと。
電話、切った方が良いかな。そう思った時、彼がかすれた声で言う。
『あと、ちょっとで日付変わる……』
「あ、うん」
『ほら、もう三分前……』
カチ、カチ、カチ。
時計の秒針の音が響く。
まるで、カップ麺が出来るのを待っているみたいなどきどき感。
『十、九、八……』
七、六、五、四……。
『三』
「二」
『一』
明けましておめでとうございます!
つけていたテレビから、明るい声が聞こえた。僕もすかさず彼に言う。
「明けましておめでとう」
『ん。明けまして、おめで……とう……』
そこで力尽きたのか、僕が何を言っても彼は返事をしなくなった。僕は苦笑しながら、眠っているであろう彼に言う。
「今年もよろしくね」
そう伝えてから電話を切った。さて、僕ももう寝よう。
傍に居れなかったのは寂しいけど、こんな正月前夜もなかなか経験できなくて面白いかもね。
ベッドに入って僕は目を閉じる。
朝になったら、もう一度彼に「今年もよろしく」って言おう。
初夢には彼が出てきてくれたら嬉しいな。
今年も仲良く暮らせますように。
そう願いながら、僕は一人じゃちょっと広いベッドで寝落ちした彼のことを思い浮かべながら眠りについたのだった。
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