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7×7
「お父さん、わたしね、あのね」
「なんだい、なのか。言ってごらん」
「あのね、わたし、数字がこわいの……」
「数字が怖い? ほぅ、ほう」
「数字って、変わった形してたり、あちこちに穴が空いてるでしょ。だからかな、ずっと見てるとこわくなるの。かぷって食べられそうで」
「ほほぅ……なるほど」
「なのか、変だよね。こんなの、わたしだけだよね……」
「変じゃないさ。なのかはきっと、他の人より少しだけ感覚が鋭いんだよ」
「感覚がするどい?」
父は微笑みながら、ゆっくりとうなずいた。
「いいかい、なのか。おまえは変な子でもないし、ダメな子でもない。なのかに合った勉強方法がきっとあるはずだ。それをお父さんと一緒に探していこう」
「お父さん……」
お父さんは私の言葉を否定することなく受け入れてくれた。それが何よりうれしかった。
「いい機会だから、おまえの名前の秘密と、最強のおまじないを教えてあげよう」
「最強のおまじない?」
「『なのか』という名前はな、実は『七』という数字も含まれてるんだよ」
「え、そうなの?」
「お父さんの名前は七郎だ。七郎の娘で、七日に生まれた娘だったから、『なのか』という名前にしたんだ」
びっくりした。
お父さんの名前は知っていたけど、お父さんはあくまで『お父さん』で、名前を強く意識したことは少なかったから。
なにより、自分の名前に数字が含まれてるなんて、考えたこともなかった。
「なのかは、お父さんの名前に数字が入っていると怖いかい?」
「ううん。お父さんは優しいもん」
お父さんはにっこりと笑った。
「お父さんもなのかのことが大好きだ。お父さんの七郎の『七』と、娘のなのかの『七』。お父さんとなのかが力を合わせると、それはつまり、7×7だ」
「7×7……」
お父さんの言葉を、ゆっくりとくり返した。
「7×7はな、お父さんとなのかだけが使える、最強のおまじないなんだ」
「最強のおまじない? 数字がおまじないになれるの?」
「もちろん。だって、お父さんとなのかの名前に数字が含まれてるんだから」
「そっか。そうだよね……」
数字がこわい。
それまで確かに感じていた恐怖が、父の話で少しずつ揺らいでいくのを感じていた。
「困ったことがあったら、お父さんの言葉を思い出して、『7×7』と唱えてごらん。お父さんはいつだってなのかの味方だ。7×7は最強のおまじない。忘れるな」
「……うん!」
7×7は最強のおまじない。
数字に対する強い苦手意識は、父の話を聞いてから少しずつ変わっていった。九九がすぐに覚えられたわけではないけれど、父と一緒に勉強していくことで、数字が好きになっていったのだから。
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