おまじないのおかげ

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おまじないのおかげ

   ** 「7×7は最強のおまじない。お父さん、あれって実は適当な思い付きだったでしょ。九九が覚えられない娘に、九九を暗記させるための」 「そんなことはないさ。おまじないのおかげで、なのかは立派な大人になれたろう? 九九だって覚えることができたし」 「まぁ、そうなんだけどね」 「だろう?」  父から最強のおまじないを教わった私は、父と一緒に力を合わせ、自分なりの勉強方法を身に付けていった。  本で調べたりして自分の特性を理解し、受け入れていくようにした。  困ったり辛くなることもあったけれど、そんな時はいつだっておまじないを唱えるのだ。 「7×7は最強のおまじない。わたしはひとりじゃないし、変な子でもない」  成長した私は数字への苦手意識もなくなり、社会で普通に働いていけるようになった。   「お父さんのおかげだよね。卑屈になることなく、大人になれたのは」 「そう言ってくれるのは嬉しいよ。でもオレはきっかけを与えただけさ。あとはなのか自身の力だよ」 「お父さんもそう思う? 私もスゴイよね~」 「ちょっとおだてると、すぐに調子にのるんだからな、なのかは」 「えへへ~。たまにはいいじゃない。お酒飲んでる時ぐらいさ」  社会人として自立した私は、父とお酒を飲み交わし、思い出話に花を咲かせるようになった。 「なぁ、なのか。聞いてもいいかい?」  すっかり酔っぱらった私に、お父さんが聞いてきた。 「なぁに? お父さん」 「7×7はいくつだい?」 「……知らない。答えたくない」
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