九九が苦手な少女

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九九が苦手な少女

「それでは今日も九九(くく)から始めましょうね。皆さん、九九はもう覚えましたか?」 「はーい、先生!」  クラスのほとんどの子供たちが元気よく返事をする。  地獄のように辛い時間が始まった。  わたしだけ、ひっそりと顔を下に向けた。満足そうに微笑んだ担任の先生から、必死に目をそらす。 「では先生が順に呼んでいきますから、呼ばれた子は立ち上がって九九を言ってくださいね。ちゃんと言えた子から、九九表にスタンプを押しますよ」 「はーい!」  先生に指名された子は元気良く立ち上がり、ほこらしげな様子で九九を暗唱していく。 (どうか、どうか、当てられませんように……!)  神様に祈ることしかできない。できることなら、教室から逃げ出したかった。 「杉沢なのかさん。なのかさん、返事は?」  祈りもむなしく、先生に指名されてしまった。 「は、はい……」  呼ばれたら、立ち上がるしかない。クラス中の視線がわたしに向けられる。 「なのかさん、7の段を言ってみなさい」  よりによって、一番苦手な段だった。 「えっと。7×1=7(しちいちがしち)7×2(しちに)……あれ? えっと、えっと……」  先生は軽くため息をつき、わたしをじろりとにらんだ。 「なのかさん、7×2(しちに)はなに?」 「しちに、しちに……わ、わかりません……」 「7×2は14でしょ? このクラスで九九を覚えてないのは、あなただけですよ。家で勉強してるの?」 「は、はい」 「勉強してるなら答えられるでしょ。ちゃんと勉強してないから、九九を言えないんです」  わたしが嘘をついている、と先生は言いたげだった。 「で、でも……」 「でも、じゃありません。勉強しない子はスタンプを押してあげられませんよ。家で勉強してくること。いいですね、なのかさん」 「はい……」 (うそじゃないのに。ちゃんと家で勉強してるのに……)  わたしは数字が苦手な子どもだった。  特に九九が嫌いで、九九の暗唱は私にとって苦痛でしかなかった。  
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